夏真っ盛りの8月下旬だが、とにかく毎日暑すぎる。昼外にちょっとご飯を買いにいくだけで殺人的な太陽に体を焼かれ、数分後に家に帰ってきたときには命の危険を覚えている。それぐらいに毎日暑いし、間違いなく毎年夏は暑くなっている。
とはいえ、こんなにも毎日暑い理由ははっきりしている。気候変動、地球温暖化だ。これによって地球の温度が実際に少しずつ増しているせいだ。30年前と比べて、世界各地で気温が50℃を超える日はなんと2倍になった。そして、多くの国々、企業が地球温暖化を食い止めようとしているが、しばらくは止まらないとみられている。
その場合何が起こるのかといえば、猛暑やハリケーンによる災害、乾燥地帯が増えることによる火事の増加、沿岸地域の水没などである。特に水没は厄介だ。そうなれば、住んでいた場所を離れ、別の場所へと移住を強いられる人々も出てくる。
本書『気候崩壊後の人類大移動』は、そうした「人類大移動」の未来について書かれた一冊だ。我々はいつ、どこで、誰が移住を強いられるのか? 我々はどこに行くべきなのか? また、そんなにたくさんの人類が移動することに、現況のシステムはとても耐えられそうにないが、では今後世界はシステム・運用方法をどうかえていけばいいのだろうか。国境問題や移民政策、食糧問題にジオエンジニアリングに都市計画まで、気候変動をとっかかりに無数のジャンルを網羅し、検証している。
すでに移動は始まっている。
現在の気候モデルの予測によれば、2100年には産業革命前よりも地球の平均気温は3℃から4℃高くなるという。仮に平均気温が4℃上昇したら、地球上の多くの地域が居住に適さなくなる。アフリカのほとんどは砂漠になり、中国東部の川や帯水層は干上がり、アメリカ南西部は砂漠化と火事と猛暑の影響で人は住めなくなるだろう。
氷河や氷床はほとんど溶け、海面は2メートルほど上昇するので、ポリネシアは海中に水没する。『今日、海抜が低い島や沿岸地域の多くには地球の全人口の半分ちかくが集中しているが、海面が上昇すれば居住不可能になってしまう。その結果、二一〇〇年前までにはおよそ二〇億の難民が発生するという予測もある。』
インドだけでも、一〇億ちかくの国民が危険にさらされる。ほかにも中国では五億人が国内での移住を迫られ、ラテンアメリカやアフリカでは何百万人もが大陸を縦断して移動しなければならない。そして、南ヨーロッパの特徴である地中海性気候の勢力圏はすでに北に広がり、スペインからトルコに至る地域で砂漠のような気候が常態化している。一方、中東の一部はすでに、熱波と水不足と土壌の劣化による被害が深刻だ。
人々は住み慣れた場所からの脱出を始めるだろう。いや、すでに移動は始まっている。
「すでに移動は始まっている」のだ。たとえば、海抜が低い場所に位置する、環状サンゴ礁から成る国「キリバス」は、水位が危険なレベルに達したため、国民全体を他国に移住させる準備が進められているという。国は国民のためフィジーに土地を購入し、新天地で生計の手段をみつけられるよう、国ぐるみで支援している。
キリバスではすでに就労目的で国民を海外に送り出してきたが、将来的に国民が大量の難民となって人道支援に頼ることも見据えて、ニュージーランドには看護師を派遣しているという。国内人口が10万人程度の国家だからこそともいえるが、キリバスで行われている決死の対策の数々が、世界各地で行われるかもしれない。
どこへ行けばいいのか
さて、では大移動する必要があるとして、どこへ行けばいいのだろうか。ひとつ確定でいえるのは、高緯度地域は安牌だ。グリーンランドやシベリアのような、これまでは人の居住や農業に適していなかった場所が一転、希望の地になる。アメリカの国家情報会議によれば、農業可能地域が増え、その支配的地位が盤石になるため、ロシアは温暖化の進行から最大の利益を得る可能性を秘めているとされている。
北緯四五度の地域は、二一世紀には安息の地として栄えるだろう。地球の面積全体の一五パーセントを占めるほどだが、氷に閉ざされない土地の二九パーセントが集まり、現在は世界のごく一部の人たち(主に高齢者)が暮らしている。将来は平均気温がおよそ一三℃に上昇し、人間の生産性には最適な気候条件が整うと予想される。
アラスカやカナダやスウェーデンのような国(と地域)も、今後繁栄を迎えるのは間違いない。北半球では温暖化の影響でこれまで育てられなかった作物も育てられるようになり、林業だけでも30%の成長が見込める。スタンフォード大学の研究によれば、地球温暖化はすでにスウェーデンの一人あたりGDPを25%増加させているという。
もっとも、そうした恩恵を受ける地域も、今後マイナスがないわけではない。自然災害は他の地域と同様に発生するし、永久凍土が消滅すると、その固く凍りついた土をあてにして作られていたインフラ設備が軒並み使えなくなってしまう。
対抗策として、何ができるのか?
本書ではただただ危険を煽るのではなく、人類大移動の時代に備えて、何をすべきなのか? 何が行えたら対応できるのか? についても存分に語られている。一つ必要なのは、人々が「移動」しやすいシステム作りだ。複雑な手続きをできるだけ廃して移住元・移住先両国家にとって利益のある移民システムの構築も必要になるだろう。
たとえば、ある国家から別の国家への移住ビザが市民に発行され、市民はその国を受け入れた場合は指定の部門で指定期間働き、研修への参加が義務づけられる──などである。移民にとって大変なのは環境の変化だけでなく、それによって社会的つながりがゼロになってしまうこともあるが、それに対してもケアが必要で──と、「移住が前提の社会、国家」を世界的に推し進めていくために、考えるべきことは多い。
他にできることも数多くあって(炭素排出量を減らしたり)、本書で検討されているものの一つに地球の気候システムへの意図的かな介入である「ジオエンジニアリング」もある。成層圏に意図的に粒子をばらまいて太陽光を反射させることで地球の気温を操作したりすることを指しているが、すでに現時点で試されているものも多い。
たとえば光を反射する人工雪(ガラスで作られている)を氷河にふきつけることで、氷の反射率は15〜20%増加するという。本格的に導入すると費用は50億ドルと推定されるが、実現すれば気温は1.5℃減少、氷の厚さは最大で50センチメートル増え、温暖化に関して、15年の時間稼ぎができるという。
おわりに
明らかに年々暑くなっていて正直もう限界だよと思ったりもするが、本書を読めば未来に少しの希望もみることができるだろう。できれば、移住せずにすませたいものだが、いつかくるその時のために、準備をしておくのも良いかもしれない。