お盆を過ぎたら残暑、と教わったはずですがいまだ暑さ真っ直中といった感のある日本列島です。この分だと9月も涼しいところで読書がいいね、という季節になりそうです。9月のノンフィクション界はそんな時間にぴったりの重厚なラインナップが揃いました。筆頭は『イーロン・マスク(上下)』
TwitterからXへ、日々お騒がせの存在になっているイーロン・マスクの評伝。著者は『スティーブ・ジョブズ』など数々の人気評伝を送り出してきたウォルター・アイザックソン。アイザックソンは2年にわたってマスクと行動を共にし、人々の話を聞いてきたそうです。なんと世界同時発売という注目作。そして、マスクをはじめとしたスタートアップの内実に興味がある方には『The Power Law(ザ・パワー・ロー)』
もオススメです。ベンチャーキャピタルの世界を描くノンフィクション。こちらも上下巻というボリュームです。
来月発売予定の新刊から気になったものをいくつかピックアップして紹介していきます。
イエローストーン公園には、増えすぎた草食動物が生態系を壊し荒れ地にしたという過去があります。その自然を戻すために連れてこられたのがオオカミ。オオカミが自然を再生していく物語は非常に有名なお話で、絵本にもなっています。今回のノンフィクションではオオカミの姿を記録するもの。運命に翻弄されるオオカミたちを追うウルフウォッチャーとオオカミによる自然再生計画の全貌とは。
コンピュータの生みの親とされ、世界一の天才とも言われているジョン・フォン・ノイマンの評伝。原著は2021年の発行です。数々の功績を残しながらも、それほどの知名度がないのはなぜなのか、そんなコメントを目にしたことがあります。20世紀という激動の時代は科学の進歩の時代でもありました。単なる評伝にとどまらず、そんな歴史を俯瞰出来るノンフィクションでもあります。
生成AIはなんなのか、何が出来るのか、人間に取って代わる存在になるのか。そういった議論は過去のものになりつつあります。気づけばもう当たり前の存在になり、AIとの恋愛が話題になる世の中になりました。こちらは、性愛ということに特化してAIとの未来を考えるノンフィクション。性欲ということを定義し実装することは出来るのか、ロボットが広まるとヒトはどうなるのか。最先端の知見から未来を予測します。
7月に刊行された『射精責任』が大きな話題になっています。避妊の責任について問うこの本と対をなすようなノンフィクションが登場します。この『避妊男子』は、男性主体の避妊方法を探す旅に出た男性ジャーナリストのお話。彼らが旅で出会ったのは、40年以上変わらない避妊法、手作り避妊法など想像の斜め上を行く挑戦の数々だった、というお話。あわせて読んでみては。
「好きな人と食べれば何でも美味しい、とか素敵な景色に見える」というような話がありますよね。これは決して思い込みでも何でもなく、知覚というものにはズレがあるのだそうです。この知覚を科学的に問い直す作品。上のような前向き(幸せ?)な見え方なら良いのですが、内容情報を見る限り、糖分摂取→物までの距離を短く見積もるとか、嫌悪感を抱きやすいと政治的に保守になりやすい、など社会にも影響を及ぼすズレもあるそう。
2022年の11月に原著が刊行されたミシェル・オバマのノンフィクション。前著『マイ・ストーリー』は幼少期からファーストレディーになってその経験を語ったところまでの自伝でしたが、今回は、不確実な時代を生き抜く知恵を描いています。欧米ではベストセラーになった本ですが、どれくらいの反響になるのか気になるところです。
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紹介した以外にも、内実ともに重厚な本が揃っています。まだまだ暑い日が続きます、涼みながら未来を考える読書をお楽しみください!