「働き方改革」が叫ばれている。厚生労働書のHPによると、「現代日本が抱える少子高齢化や介護育児との両立などの問題にたいして働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し(後略)」とある。だが現実は多様な働き方に対応しているとは言い難い。
確かに伝統的な徒弟制度には問題があっただろう。長時間労働を強いられたうえ、賃金は安く、技術習得は「背中を見て覚えろ」では敬遠されても仕方ない。だが現代では「この技術を覚えたい」として伝統技術の師匠に飛び込む弟子が少なくない。
『師弟百景』では様々な職人が働く現場に密着し、師弟の信頼関係や世代間ギャップなど、それぞれの思いに触れながら技術と伝統が受け継がれる様を取材している。
語られる職業は「雑木の庭」の庭師、茶の湯釜「和銑(わずく)」の釜師、雲慶・快慶の流れをくむ「慶派」の仏師、「草木染」の染織家、「京コテ壁」の左官、「日本刀」の刀匠、江戸切子職人、「古文書などの文化財修理」を担う文化財修理装潢(そうこう)師、江戸小紋染職人、「鵤(いかるが)工舎」の宮大工、「浮世絵」の江戸木版画彫師、洋傘職人、英国靴職人、「雨畑(あめはた)硯」の硯職人、「社寺に関わる絵付け職人」宮絵師、茅葺き職人の16種。
その名を聞いただけではどんな種類の仕事かわからないものも多い。だが伝統文化は継承されるだけでなく、その時々の創意工夫によって生かされ、現在まで脈々と息づいていることに新鮮な驚きを持った。かってはほとんどいなかっただろう女性の職人も多数育っており、その働きを頼もしく思う。本書によって、新たな弟子入りを望む者が増えれば素晴らしいことだと思う。
師匠は弟子に教えるもの。絶対的な強者である、と思い込んでいたのだが超絶的な天才の弟子を持つ師匠の悩みは深い。『師匠はつらいよ』にはその懊悩がぶちまけられている。
著者は今をときめく将棋の天才・藤井聡太の師匠である、彼が師匠となったのは、たまたま幹事をしていた「東海研修会」に参加していた小学四年生の藤井が、夏の奨励会試験を受けるために必要とされる師匠として著者を選んだ、という事らしい。
藤井の強さは小学一年のころから折り紙付きで、弟子入りした直後の記念対局で早くも師匠は敗北を喫している。
将棋の棋士にはその時々に中原誠、米長邦雄、谷川浩司、羽生善治などの天才が現れる。その功績をすべて塗り替えるであろう藤井聡太の師匠というだけで多忙を極めているのは嬉しいやら悲しいやら。
ちなみに私は将棋をほとんど知らない。しかし昔から棋士のノンフィクションは大好きだ。勝負師たちの世界は魅力的だ。本書はそんなに強くない(失礼)師匠が日本最高峰の弟子を心配しつつ温かく見守る心情にあふれている。藤井聡太はどこまで強くなるのか。
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