もはや新型コロナは過ぎ去ったかのように、人は旅を楽しんでいる。異国への興味はどの国の人も等しく持っているらしく日本の観光地は外国人で溢れている。
とくに日本の「食」は世界中の憧れだと言われている。インバウンドや富裕層を対象に美食を核に据えた観光立国論を語るのが本書である。
いまや世界のどんな辺鄙な場所のレストランであろうとも、魅力があればその情報はネットで拡散して、世界のグルメたちを惹きつけている。
「世界中の食を食べ歩く最先端の人々」を著者は「フーディー」と定義した。経験したことのない世界の美味を求めプライベートジェットに乗ってどこへでも出向き、値段も関係ない。その情報が更に人を集め町が栄え新しいコミュニティができる。
一方、日本のテレビや雑誌には食べ物の話題でいっぱいだ。話題の味を求める人々は行列を厭わない。
そんな中に著者が「ヘンタイ」と呼ぶ突出した料理人が出ることで、富裕層のフーディーたちはその料理に吸い寄せ荒れるように集まってくる。
ならばその「ヘンタイ」が作った”点”であるレストランやホテルの周りを開発して同程度の食を集めれば、滞在型や移動型の旅行が企画できる。事実、富裕層をターゲットにした例は海外にはいくつもあるのだ。
そこで提案されたのが、地方の食をまとめ、文化圏を創ることだ。紹介されているのは「大軽井沢経済圏」「北陸オーベルジュ構想」「瀬戸内海ラグジュアリーツーリズム」。
既に確立された東京や大阪、京都にも大きな改良の余地があるという。富裕層が集まることで、普通の人の注目も集まるのは当然だ。誰もが経験できることではないから、無理をしてでもそこに行き味わいたい。旅行とはそういうものではないか。
著者は『東京いい店うまい店』の編集長。彼こそ真のフーディーでもある。机上の空論より「ヘンタイ」の発掘。日本の観光の将来は明るい。(週刊新潮 7月13日号)
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ミシュランが出てくる前は、圧倒的にこの本を参考にしてました。