『失くした「言葉」を取り戻すまで 脳梗塞で左脳の1/4が壊れた私』家族一丸で取り組む前向き闘病記

2023年4月28日 印刷向け表示
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作者:清水 ちなみ
出版社:文藝春秋
発売日: 2023/2/21
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清水ちなみは1987年に『週刊文春』で始まった「おじさん改造講座」というコラムの著者である。会社という閉じた世界に棲息する「おじさん」たちを観察したものだ。

最初は好奇心で友だちへアンケートをとったことから始まった。

あなたの会社のおじさんは奇妙なネクタイをしていませんか?

この問いには〈登り龍〉、〈土星とロケット〉など珍妙な解答が送られてきた。面白がって続けるうちに雑誌の連載となった。雇用機会均等法が施行されてもOLの立場は弱く、コンプライアンスもハラスメントもない時代。有料会員としてアンケートに協力する、不満をもつOLの数は8000人にもなったという。

フリーランスになって33歳と38歳で出産。子育てに執筆に講演会と飛び回った結果、高血圧に苦しめられるも代替医療に頼る。

2年前から徴候があったにもかかわらず放置した結果、2009年にくも膜下出血を起こし大学病院に搬送された。驚くのは、このとき一度は手術を拒否して帰宅したことだ。

だが信頼する医師の説得を受け、結局は手術に踏み切った。当時小学2年の娘に隠すことなく事情を話す録音が残っている。母を信じるけなげな彼女が涙を誘う。

手術は成功したが、別の場所で脳梗塞を起こし左脳の4分の1が壊死。言語と右手の機能障害が残る。最初は「お母さん」と「わかんない」の二語しか喋れない。徐々に夫や娘に意思が伝わるようになる過程が実に感動的だ。

ここから先は家族一丸となってリハビリに励む泣き笑いの出来事が綴られていく。会話のかなりの部分が録音されていたのだ。さらに本人がとにかく明るい。家族も沈んでないのがいい。

「おじさん改造講座」で一世を風靡したコラムニストが「清水ちなみ改造計画」で復帰、というのもなかなかいい。間に挟まれた手書き文字が回復度合いを示している。さて次は何を改造してくれるのだろうか。(週刊新潮4月27日号に加筆修正)

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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