生々しいロシア-ウクライナの攻防が日々ニュース映像を通して伝わってくる。ただ、今回の戦争はそれが全てではない。目に見えない攻防が今まで以上に激しさを増している。
今回の戦争が一線を画すのは、両陣営ともにサイバー空間を多用し、「ハイブリッド戦」というサイバー攻撃と武力攻撃を組み合わせた戦いを繰り広げていることである。ハッキングなどのサイバー攻撃だけでなく、スパイやプロパガンダも繰り広げられている。
これは新しい戦争のかたちであり、本格的な情報戦争の幕開けとして歴史に刻まれるだろう。開戦前夜のサイバー攻撃、補給を断つための鉄道運行システム停止作戦、ディープフェイクを活用した偽動画やフェイクニュース作戦、敵国情報機関の機密情報リーク合戦など、サイバー攻撃や情報戦を使って戦局をかたちづくっていく新たな手法が用いられた。本書でそれらがつぶさに紹介されている。
そして、この情報戦を注意深く見守っているのが、もう一つのサイバー大国、中国である。台湾などで有事になれば、欧米による同じような作戦が繰り広げられることになるため、次の情報戦に向けて虎視眈々と戦況を見守っているのかもしれない。
スノーデンが暴いたようにアメリカが世界最大かつ最強のサイバー大国なことは間違いないが、中国も年々力をつけつつある。そんな中国のサイバー作戦は、最近、質的変化が見受けられると著者は指摘する。従来、技術や情報を盗むスパイ活動を主にしていた中国だが、近年はデジタルインフラを使って中国のサイバー覇権を世界に広げようとしているという。
「一帯一路」構想にもとづいて、中国はデジタルインフラである「5G」「監視カメラ」「デジタル決済システム」「海底ケーブル」の面で世界的拡大をすすめ、アメリカが牛耳るデジタル世界を塗り替えようとしている。自前のインフラを構築することで、敵国からの攻撃をやわらげ、かつ、攻撃しやすくするための戦略である。
国家百年の計として虎視眈々とデジタルインフラ整備とサイバー軍強化をしていく中国。国際政治経済において大きなうねりを引き起こしている。欧米vs中露というサイバー空間での構図ができつつある世の中で、個人や企業はどうふるまうべきか、本書を読みながら唸ってしまう。
2022年の秋には、米国の中間選挙と中国の党大会という大きな政治イベントを迎える。この政治イベントを優位に迎えるために米中露はどのようにサイバー空間を活用するのか。これからのサイバー空間から目が離せない。
同じ著者によるサイバー本。各国間の小競り合いやアメリカ大統領選挙へのサイバー攻撃など、今のサイバー大戦の前哨戦をおっている。書評はこちら。