東京スカイツリーの開業まで、あと半年余りとなった。現在は竣工時の高さ634mまで到達しているので、これ以上高くなることはないのだが、日増しに成長していく建設中の塔を見るのは、ずいぶんと楽しいものであった。この低成長時代と言われる昨今、日を追うごとにどんどん高くなっていくという経験は、拙宅の積ん読本の山以外では、なかなか味わうことができない。
その東京スカイツリーが、皇居から見たときに鬼門と呼ばれる北東の方向にそびえ立っていることにお気付きの方は、あまり多くはないだろう。しかも驚くことなかれ、裏鬼門と呼ばれる南西の方向には東京タワーがそびえ立っているのである。
首都を代表する二つの電波塔が、皇居の鬼門と裏鬼門の方角に向かい合う。はたしてこれは偶然なのか。本書はそんな東京の隠された構造を、鬼門というコンセプトのもとに読み解こうという野心的な一冊である。驚くのは、その豪華キャストだ。仮にこれが映画なら、こんなクレジットになるだろう。
千年の時空を超えた、「現実空間」と「潜在空間」の織りなす一大スペクタクル。
全タワーが泣いた!
出演:東京タワー、東京スカイツリー 平 将門、江戸 重継、太田 道灌、徳川 家康
特別出演:西郷 隆盛
ロケ地:浅草寺、増上寺、富士山、筑波山
演出:天海、丹下 健三
そもそも鬼門とは何か?広辞苑によると「陰陽道で、鬼が出入りするといって万事に忌み嫌う方角で、丑寅すなわち北東の称」とある。ちなみに、中国では鬼門を不吉な方角とする考え方はなく、鬼門を忌み嫌うというのは日本独自の考え方であるそうだ。
江戸の街並みが、裏鬼門に位置する富士山と鬼門に位置する筑波山を手掛かりにして作られたというのは、有名な話である。鬼門対策においてキーパーソンとなっていたのは、徳川家康の宗教顧問、慈眼大師天海。そして天海が真っ先に考えたのが、怨霊伝説で有名な平将門の御霊への配慮であったという。
この平将門を筆頭に太田道灌、徳川家康、西郷隆盛と名を連ねる歴代の鬼たちに対して、平安時代、江戸時代、明治時代、戦後のGHQ、昭和の建築家たちが、どのように対処してきたのかというのが、前半部のテーマである。そして現代からはるか昔まで遡り、鬼門対策の軌跡をつなぎ合わせると、東京には鬼門を軸とした不思議な回り道が存在しているということが明らかになる。
一方で後半部のテーマは、東京スカイツリー、東京タワーの隠された正体を探るべく、平将門との関係性を解き明かしていくところにある。つまり平成の世となった現在においても、東京スカイツリーによって封じ込められている「鬼」を平将門と見立てているのが、本書の基本スタンスだ。
著者は両者の関係を、松本清張の『点と線』を連想させるような構図で見事なまでにつないでいる。と言うと、いささか言い過ぎのきらいがあるが、本文で著者自身がそう述べているのだから仕方がない(笑)。しかし、その検証プロセスに執念深さを感じるのも事実だ。そして、検証の立脚点が陰陽道という非科学的なものの上に成り立っていることこそ、本書のユニークな点である。
本書を読む際には、東京近郊の地図とペンがあれば、楽しさはぐっと倍増するだろう。例えば、平将門とゆかりの深い七つの神社、神田山日輪寺、兜神社、将門塚、神田明神、筑土神社、鬼王神社、鎧神社を、本書に倣って地図上で結んでみる。すると、浮かび上がるその線は、北斗七星の形そのものになるのである。古来より北斗七星を逆さに描いた旗を「破軍星旗」と呼び、この旗を背にして戦うと、必ず勝つという故事があったという。さらに、北斗七星を横目に北極星の位置を辿っていくと、そこには東京スカイツリーが鎮座しているという奇跡の構図が浮かび上がる。
著者がなぜ、このような仮説を構築したのか、あとがきを読んでその答えに驚いた。著者の思いは、東京タワーに長く残ってほしいという一点に集約される。明確な役割を持たなくなってしまう東京タワーが、「採算が取れない」の一言で解体されてしまうことを危惧しているのだ。
つまり、経済合理性というものに対して、陰陽道という対抗軸で挑んでいるわけだ。この着眼と発想には感服する。東京タワーが無くなる日、そんな日が訪れることを望むわけもないが、いざ目前に迫った時、対抗するためには論理や科学を超えた新たな視点が必要になってくるのだ。
それゆえに、本書では東京スカイツリーの話のみならず、「東京スカイツリーと東京タワー」という「対の関係性」が強調されている。裏付ける資料として、わざわざ平安後期に執筆された世界最古の庭園秘伝書『作庭記』という指南書まで持ち出してくるほどだ。そしてそこには、「裏鬼門に立つ東京タワーが、鬼門に立つ東京スカイツリーを向かい入れる場合に限って、新タワーは不幸を免れる」と受け取れる一文が存在しているというから驚く。実際に、東京タワーが出来る前の明治時代、皇居の鬼門方向にあった、東京随一の高層建築「凌雲閣」が関東大震災で壊れてしまった事実もあったそうだ。
都市の魅力は計算し尽くされた整然さよりも、合理性には欠けるが人間臭さを感じさせるようなところに隠されていたりする。本書と対峙するにあたって大切なことは、「正しいか、正しくないか」や「信じるか、信じないか」ということではなく、「面白いのか、面白くないのか」という態度で臨むことにあるのだろう。
3月11日、日本を震撼させた東日本大震災。東京スカイツリーは幸いにも作業員と塔本体に異常はなく、一週間後の3月18日、待望の高さ634メートルに到達した。一方の東京タワーは、最長部のアンテナ支柱がまがったものの、なんとかそこで耐えきった。最大の危機を乗り越えた「幸運の双頭」。千年の時を経て来年5月、いよいよ新しい物語が始まる。
陰陽道の大先輩、中国の様子はいかに。われらがハマザキカク編集による、この一冊。相変わらずAmazonの内容紹介文が面白い。「運気を上げようと、風水のアドバイスを大胆に取り入れ、全てがマズい具合に混ざり合わさった結果、ちょっと世界レベルで有り得ない形になっている!」だそうだ。
無宗教と言われながらも、年間数百万単位の人間を集める聖地が、いくつも存在しているのは日本くらいであるそうだ。昨今ではパワースポットなどと言われ関心を集めている、聖地の数々を紹介した一冊。
鬼門対策なんて信じられない。でも、平将門の怨霊伝説は信じてしまう。そんな心配性な方は、本書にて万全の対策を。台風、竜巻、洪水などの自然災害から、砂漠、極地での対策まで。