1945年8月6日午前8時15分、世界で初めて、広島に原子爆弾が落とされた。三日後、今度は長崎が標的となった。日本は世界で唯一、核兵器で攻撃を受けた国となった。
本書はキノコ雲の下で生き残った生存者の生の声を初めて報道した『HIROSHIMA』の著者ジョン・ハーシーと記事を掲載した〈ニューヨーカー〉誌編集部が、原爆の被害を隠蔽しようとするアメリカ政府と東京の連合国軍最高司令官総司令部(SCAP)をいかに欺き、被害者たちの声を取材したかを描く緊迫したノンフィクションである。
終戦後アメリカ政府は原爆の被害を隠蔽しようとしていた。日本のメディアはSCAPに牛耳られ、外国人記者は被爆地への自由な立ち入りを禁止されている。御用学者は被害を少なく報告した。
ジョン・ハーシーは従軍記者時代に原子爆弾計画を知っており、大規模な被害を想定できた。そのため日本で取材している記者の記事が不満だったのだ。日本に行って“建物ではなく人間に何が起きたのかをすべて書く”と決意する。SCAPに入国申請が認められた46年5月、彼は正式に通信員となり広島に入る。
原爆投下から10か月も経つと現場の統制が緩み、過去の出来事となりつつあったのも幸いした。ハーシーはその隙を突いた。壊滅した街には震え上がったが、彼は人の言葉を求めた。わずか14日の滞在中に、被爆したドイツ人神父、日本人牧師、三人の幼子を持つ寡婦、広島赤十字病院の医師、個人病院の医師、女性事務員から詳細なインタビューを取った。
8月29日の朝、3万語前後の記事を一挙掲載した〈ニューヨーカー〉が店頭に並んだ。アメリカ人は初めて原子爆弾の被害の悲惨さを知り大反響となった。政府の隠蔽していた事実が白日のもとに晒(さら)されたのだ。
記事はその後書籍化され、世界各国で翻訳されて原爆の被害を伝え続けている。本書を読み終わってから私は図書館で原著である『ヒロシマ』を読みふけった。併読されることをおすすめしたい。(青春と読書8月号)
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未読の方はこの機会に併せてぜひ読んでほしい。『ヒロシマを暴いた男』を読んだ後だと、印象が全く違う。
『この世界の片隅に』 はアニメで見た方も多いと思うが、こちらもぜひ。