新型コロナウィルス感染爆発の初期、台湾はIQ180の頭脳を持つデジタル担当相オードリー・タンによる的確な対策でパニックを免れた。昨年出版された評伝『Auオードリー・タン』(文藝春秋)では彼女の生い立ちから家族や仲間への思い、未来への展望などが詳述されている。
そのなかで、彼女の原点が、いじめにあった台湾の小学校を離れドイツで教育を受けたことだと知った。
オードリーの母、李雅卿もドイツから子どもの教育について大きな影響を受けた。台湾に戻ってから子どもの自律、自主学習を重視している世界各国の学校を参考に、1994年、この国初の自主学習学校「種子学苑」を創設した。
ここでは語文(言語・文学)と算数だけが必修科目。選択科目が22種類もあり子どもたちは自分で何を学習するか決める。ルールは子どもと先生の話し合いの場である『生活会議』で決め、問題が起こったときに判断する「校内法廷」の裁判官は、子ども同士の投票で選ばれる。
本書の原題は『乖孩子的傷、最重』(「いい子」の傷は、深い)。20年ほど前、悩める教師や生徒、親からの質問に李雅卿が答えた本だ。母として、新しい教育のパイオニアとして、理想の教育システムを作ろうとする苦難が語られている。
「学校の規則に馴染めない」「なぜうちの子はいじめられるのか」「親との関係がうまくいかない」などの悩みへの回答は日本の教育現場がいま抱える問題を解決する糸口になるかもしれない。
新型コロナ感染予防のため日本でも「オンライン授業」や「自主学習」を取り入れなくてはならなくなった。だがまだ手探りの状態だ。
番外編として、ネットを使った通信制高校として注目を集めるN高等学校の生徒や親、職員からの質問に丁寧に答えている。子どものために大人は何ができるのか。親子、教員が一緒に対処法を考えることの大切さを教えてくれる一冊である。(週刊新潮7/8号より転載)
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