4人の女性が、顔と名前をあかし、before・afterの写真とともに整形体験を語る。いつもHONZに掲載されるノンフィクションと、傾向はちがう。けれど、これも現実、という読後感を持つだろう。
タイトルどおり東京に来たことこそ、彼女たちの転機だった。「東京はデカい、強い、カッコいい!」。華やかで刺激の多い街で生きる。そのためには綺麗になるしかない。
整形なんてしなくてもいい。そのままがいい。そんなお説教を、本書は蹴りとばす。費用も痛みも、並大抵の覚悟では、とても引きうけられないからである。
本書の巻頭にある、4人の写真とデータだけでも見てほしい。安い人でも63万円、最高額は約856万円、といった費やした金額、そして、包帯だらけの痛々しい写真を目にすれば、その裏側にある物語を読まずにいられない。
ひとり目の渡部いずみさんは、テレビ番組「恋のから騒ぎ」で明石家さんまさんに「南米の鳥」と呼ばれる有名出演者だった。その後、グラビアモデルとして働くうちに「こんな自分は好きじゃない」と思い、はじめての整形手術を受ける。目の「四点埋没」に12万円かけて両目を二重にする。
つぎの脂肪吸引では、「オーブンで焼かれているような、ベリベリベリベリベリ!って音が聞こえるような痛み」に悶絶する。「体の痛みなんていくらでも耐えてやるよ」と決意する。さらなる目の手術から仕上げの脂肪吸引まで700万円以上を投じる。
「バケモノ」と自称する手術後の血みどろを経験しつつ、キャバ嬢を経てつくった化粧品会社の仕事を黙々とこなす。整形、そして、会社の経営、この2つをともに命懸けのギャンブルだと腹をくくっていた。
彼女の賭けは、どうなったか。脇の手術跡をめぐる、小さな息子とのやりとりとあわせて本書で確かめてもらいたい。心を決めれば、人は、ここまで強くなれるのか。軽い気持ちの読者を圧倒する。
2人目の園田優美さんの割りきりも、すごい。「今も女は顔だと思ってるし、美が一番の正義だと思ってる。美より価値のあるものなんかこの世にないです」。
ランドセルに泥とミミズを詰めこまれるなど、壮絶ないじめを受けたから、にとどまらない。美しい母親への彼女の憧れも、「存在するだけで社会を明るくしてるんだよね、綺麗な人は」との断言につながる。整形を公言する。
スナックで働くシングルマザーの娘だったため、10代で新宿・歌舞伎町の水商売に入った。こう、園田さんを納得できるかもしれない。小学校からほとんど通学していない。そんな彼女の価値観を「狭い」と憐れむ人がいるかもしれない。
しかし、通りいっぺんの見方は、現実にそぐわない。園田さんの話すように、有名私立大学生をはじめ頭のいい子が、歌舞伎町で働く人に増えている。女性の美にお金を払う男性は、まだまだ多い。水商売の意味を知るためにも、彼女の話は参考になるにちがいない。
現実をつきつける点で、本書のなかで最も痛烈なのは、3人目の高嶋めいみさんだった。『メイド喫茶で働いてお金貯めて整形してコスプレイヤーになってホス狂いしてAV女優になった話』(主婦の友社)との自伝タイトルは、彼女のすべてをあらわす。
自己肯定感が低く、「出鱈目でバカなことをして味わうこまぎれの絶頂感、その刹那は私の存在価値を肯定された気がするのです。狂ってるは最高の褒め言葉です」と彼女は語る。
とはいえ、高嶋さんの人生は、もっと複雑に映る。韓国での壮絶な整形手術をも楽しげに語る姿からは、悲劇を喜劇に変える才能を感じる。
「整形する人には細かい人が多すぎる」と彼女は言いはなつ。本書の副題「あと1mm」とは正反対なので、そのことばは、整形手術の痛みに笑いをもたらす。おどろおどろしい悲惨な話では、まったくない。
最後の「みるくナース」さんによる、「たくさんの人が美容整形を受け入れてくれるといいなって」との願いは、本書の意図をうまくまとめる。彼女は現役看護師であり、整形手術体験をもとに情報を発信する。
「痛くないですか?」。手術についていつも聞かれる質問への答えは決まっている。「痛いですよ」。なぜ、その痛みを耐えられるのか。乗り越えなければ美しさを得られないからである。
「私どこやったらいいですか?」。その質問への答えについては、本書を開いていただこう。308ページ以降で語られる彼女の哲学は、読み巧者のHONZユーザーをも、うならせる。
美とはなにか。東京で生きるとはどういうことか。本書は、下世話な覗き見趣味を満たすどころか、深い思考へと誘う。真面目なノンフィクション読者にこそ、強くオススメです!
美とは何か。井上章一は、直接こたえてはくれません。しかしそれだけに面白い。『京都ぎらい』(朝日新書)の著者の本領は、ここにある。