「あなたがカッコいいと思う人物は?」と聞かれたら、迷うことなく漫画『MASTERキートン』の主人公、平賀=キートン・太一の名前を挙げる。キートンは、軍の特殊部隊で身につけた技術をもとに、危険を伴う保険調査員の仕事をこなしながら、考古学者になる夢を持ち続けている。物語のクライマックスで、たったひとり発掘作業に臨むキートンは本当にカッコいい。たとえひとりきりだろうと、情熱に突き動かされるまま、彼は黙々と大地を掘り返すのだ。
考古学への情熱では本書の著者も負けていない。子どもの頃、映画『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』を観てインディ・ジョーンズに魅せられて以来、その熱が衰えたことはないという彼女は、新しい研究分野「宇宙考古学」の第一人者でもある。
「衛星考古学」や「衛星リモートセンシング」とも呼ばれる宇宙考古学は、人工衛星などで取得したデータを解析し、地中に埋もれている人工物を見つけ出す最先端技術である。この技術が、考古学にとんでもない革命を起こしている。本書はその最前線の熱気を伝える一冊だ。
例えば、ある研究者は、リモートセンシングを導入した途端、30年の研究生活で発見した数を上回る古代マヤ遺跡を、たった一晩で見つけてしまったという。あるいは、ブラジルのアマゾン川流域でも、ジャングルに覆われた地域にたくさんの遺跡が隠れており、どうやらこの地にはかつて100万人以上もの人々が暮らしていたらしいことがわかってきた。まさに今、世界のあちこちで歴史が書き換えられようとしているのである。
具体的にどのように衛星画像を分析するのか。ごく基本的なものに「クロップマーク」(作物痕)がある。地中に何かが埋まっていると、そこだけ作物の成長が早くなったり遅くなったりする。この植生の違いが遺構のありかを教えてくれるというわけだ。また、自然界では直線はめったにできない。四角形がいくつもつながっているように見える場所には、古代の住居跡が埋まっている可能性がある。
リモートセンシング技術の発展は目覚ましく、今やグーグル・アースで誰もが手軽に人工衛星画像を見ることができる時代である。でも、だからといって、宇宙考古学者が空から何もかも見つけて終わり、というわけではない。その後には、地上で遺跡を調査する「グラウンドトゥルース」と呼ばれる昔ながらの地道な発掘作業が待っている。現代のインディ・ジョーンズは、いわば「鳥の目」と「虫の目」の両方を駆使しながら、過去と向き合っているのである。
著者にとって、遺跡はけっして時が止まったものではないという。それは映画のフィルムのように、人間が繰り返してきた破壊と建設の営みを映し出す。そして遺跡は、私たち自身もまた、やがて消え去る存在であることを教えてくれる。
本書を読みながら、ゴーギャンの絵画のタイトルを思い出した。「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」。著者の推計によれば、世界には5000万カ所以上もの未発見の遺跡があるという。私たちはまだ、自分自身のことを何も知らないのかもしれない。
※週刊東洋経済 2020年11月7日号