こんにちは、仲野徹です。大阪大学医学部で病理学を教えています。病理学といってもなじみがないかもしれませんが、病気の理すなわち、どんなメカニズムで病気になるかを研究する学問です。
若い人って、あまり病気に興味がないように思います。この本を手に取ってくれた人はそんなことないはずですが、考えてみればあたりまえかもしれません。もちろん子どもにも病気はありますが、おおよそ子どもは元気ですから。でも、病気のことを知っておくことはとても大事です。
たとえば、新型コロナウイルス感染症COVID-19 などはその典型です。感染の拡大を防ぐために学校がお休みになって、すごく大きな影響がありました。新型コロナウイルスが原因の病気といわれても、ウイルスってなんなのかよく知らなかった人が多かったことでしょう。PCR検査がどうとか、抗体検査がこうとか、ニュースで見たり聞いたりしても、最初はピンとこなかった人がほとんどだったのではないでしょうか。
病気のことを知らないのは、なにも子どもに限りません。大人だって怪しいものです。これも考えてみたらあたりまえです。科目でいうと、理科とか保健体育、家庭科で少しは取り上げられますけど、学校では病気のことをほとんど教えてくれないんですから。
そのことに気付いて、大人たち、そこらへんにいてるおっちゃんやおばちゃんたちに病気のことを知ってもらおうと『こわいもの知らずの病理学』という本を3年前に出しました。がんとか脳梗塞といった病気がどのようにしておこるか、をわかりやすく書いた本です。あまり期待してなかったのですが、8万部近くも売れてびっくりしました。みんな正しい医学知識を知りたがってるということがよくわかりました。
それ以前からずっと考えていたことなのですが、病気のことは学校でしっかり教えるべきです。というのは、誰だっていつかは必ず病気になるからです。病気になってから調べるよりも、前もってある程度の知識を持っておいたほうが絶対に安心ですし、安全です。国語、数学(算数)、理科、社会、英語も大事ですが、病気の知識はそれ以上に重要です。なにしろ、一生役に立ちますから。なので、中学校あたりから、からだの成り立ちや病気の基礎を教えるべきだと思っていたのです。
文部科学大臣や総理大臣にでもなれば、教育の内容を変えることはできるかもしれませんが、介教授では不可能です。なので、うんとちっさい活動ですが、中高生向けの病気についての本を書きたいと考えていました。かなり前からの構想だったのですが、忙しくて延び延びになっていました。
ところが急に暇ができました。新型コロナウイルスの影響で、講義や講演の予定がすべてキャンセルになったせいです。そのおかげで、と言ってもいいでしょう、この本を書く時間ができたのです。
病気全般について書こうかとも思ったのですが、それよりも、感染症にしぼって書くことにしました。二つ理由があります。一つは、年齢的に、若い人にも関係する病気がたくさんあるからです。もう一つは、がんや生活習慣病など他の病気に比べると、その原因や成り立ち、治療法がわかりやすいからです。なので、若い君たちが病気を理解するきっかけとしては感染症がベストなのです。
どんな病気にも原因があって、それによってさまざまな症状が出ます。そのような原因と、症状が引きおこされるメカニズムを「病因論」といいます。病院ではなくて病因です。本文で詳しく書きますが、感染症には、ウイルス、細菌といった「病原体」、および寄生虫によるものがあります。言い換えると、その原因は、ウイルス、細菌、あるいは寄生虫と、とても単純なのです。
また、医学はさまざまな病気に対して治療法を編み出してきました。当然、病因がわからなければうまく治療法を開発することはできません。でも、感染症は原因がはっきりしているので、その病因だけでなく治療法もとてもわかりやすいのです。
この本では、ウイルスと細菌が引きおこす病気について説明していきます。ウイルスや細菌が侵入してくると、からだのほうも黙ってはいません。それをやっつける働きが出動します。それが「免疫」です。これなしで感染症を考えることはできないので、免疫についてもお話をします。
その前に、「病気とはなにか」について簡単に説明する序論から始めます。序論って、なんとなくかっこよくないですか? 広辞苑を見ると、序論とは「著述や論文などで、本論の理解を助けるため、本論の前に置かれる文章。」とあります。なので、ウイルスと細菌による感染症と免疫が「本論」で、その前の紹介としての序論です。
さて、はじまりです。病気って怖いから読みたくない、などと思わないでください。健康に生きるためには、そのダークサイド、病気のことを知るのがなにより大事です。できるだけわかりやすく面白く書きますから、きっと楽しんでもらえると思います。ときどき、というか、しょっちゅう脱線しますけど、それもきっと豆知識として役に立つはずです。だから、読み終わったら、絶対に賢くなってます!
まさかのベストセラー。ずいぶんとやさしく書いたつもりですが、それでもまだ難しいと言われたりします。そんな人にこそ、今回の『みんなに話したくなる感染症のはなし』を!
柳の下のドジョウを狙ったのかと聞かれることのある本。そのとおり!
この本も相当やさしく書いてあります。心血管系、血液系、消化器系、呼吸器系、4つの体内システムについての解説です。