タイトルが結論である。装丁は黒を背景に白文字、力強いフォント、白と黒を反転させた帯。脱線のない文章で、余計な虚飾もなく、淡々と展開される。表題の結論の骨格に、4人の経営者の物語で肉付けしていく。安藤百福、小倉昌男、本田宗一郎、西山彌太郎、それぞれチキンラーメン、宅急便、二輪車、銑鋼一貫の製鉄所を作り上げた名経営者である。
直感で発想し、論理で検証し、哲学で跳躍して、一体何をするのか。それは決断である。本書では、決断を以下のように因数分解する。
決断=判断+跳躍
判断=発想+検証
決断とは、データなどを駆使して判断を下しながらも迷った挙句にあえて跳躍することなのである。ただ、決めればいいわけではない。覚悟とそれに続く行動があってこその決断である。
この方程式は経営学者である著者の長年の研究と経営の現場での苦い経験を純化し、生まれたものである。その中でも、刮目すべきは跳躍のパートである。
スタートアップの経営を象徴する名言として、「スタートアップとは、崖の上からから飛び降りながら、飛行機をつくるようなものだ」がある。それは昭和の経営者も同じであった。資本金の30倍を超える多額の投資を決断し、悪戦苦闘の末、成功に導いた。しかし、多くの人はそんな恐ろしいことはできればしたくないはずだ。経営者であれば、多くの従業員とその家族のことが頭によぎり、家族の生計を支える主体は家族の未来を案じ、無謀な転職は容易にできない。
そこまで深く考えずに、直感でとりあえずやってみるで動き始めた人も多いだろう。やってみて分かったことから次の一手をどうするか、そのときに重要になるのが論理である。データで検証し、論理によって足元を固め、固めた足元を土台に跳躍する。
しかし、跳躍は怖い。なぜなら、それは不可逆だからである。また、不可逆でなければ、それは跳躍とは呼ばないだろう。跳躍が必要な理由は、判断と行動の間に大きな溝があるからである。そして、跳んだだけでは成果は生まれない。だから、跳んだ後は走り続けなければならない。当たり前だが、なかなか跳ぶ前にはそこまで考える余裕はない。
踏み切るために、走り続けるために哲学が必要なのだ。しかし、決断を支える太く深い哲学を持つことは簡単ではない。哲学は抽象的な言葉であるが故に、簡単に似非になる。
1.ローリスク・ローリターンなのに、大袈裟に語るパターン
2.ビジョンや理念や言葉だけは勇しく、内容が薄い中途半端なパターン(最も害がある)
3.論理の詰めの甘さ哲学で取り繕う傲慢なパターン
3つの代表的な似非哲学である。心当たりのある人も多いのではないだろうか。走り続けるには、個人の覚悟と仲間のコミットメントが必要であり、哲学はその道のりを後方支援し、似非哲学は組織の瓦解を誘引する。ひ弱で似非な哲学では経営の日常茶飯事であるハードシングスに立ち向かえないし、本物の跳躍はできない。
疫病が蔓延し、先行きが見えず、予断を許さない状況下はしばらく続く。待ち受ける不確実な未来に対し、身動きが取れないでいることが一番のリスクであると考え動くのか、同調圧力と世間の空気に流され、思考を停止させることも一つの選択肢、決断しないという決断をするのか。この状況をどう捉え、何かを決断するのか、しないのか。個人も社会も何かが変わりそうな時代に、決断の機会はあまねく与えられている。
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世界的に著名なロボット研究者の研究の発想と実践のプロセスが開示されている。何度も読み返したくなる。
直感は鍛えられる。実感と実践が満載の一冊。
決断とその背景にある詳細がファクトと数字で記されている。逆張りの決断にも、根拠がある。