世間様のあれこれについて、なんとなくこうなってるんやろうなぁと思っていることは多い。ただ、それは、身の回りで見聞きしたことに、ニュースなどから得た知識を加味した漠然たるイメージでしかない。いったいそれって正しいんやろうか。
厳密に調べ上げるのは不可能だろうが、およその傾向ならわかるかもしれない。しかし、そのための調査があるとは知らなんだ。2007年からおこなわれている「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」、通称「東大社研パネル調査」がそれである。
就職、転職、結婚、出産といった重要な出来事。職場環境、家庭環境、友人・親子関係といったさまざまな状況。通勤、仕事、食事、余暇といった生活時間。さらに、健康、価値観、意識、幸福度、収入など、千人単位で何年もの間、個人を継続して追跡する調査がおこなわれた。その膨大なデータに基づき極めて多角的な解析をおこなった成果が『人生の歩みを追跡する』だ。
収入、男女間格差、健康、婚活の効果、ワークライフバランス、学歴の志向、希望、幸福感、などといった、ちょっと覗き見してみたくなるようなことが、データを元に浮き彫りにされてくる。タイトルのとおり、人生の歩みというのはこういうものなのかと、眺めていて飽きることがない。
たとえば、健康について。男性では結婚により健康度が向上するが、女性ではそうでもない。そして、健康の悪化をもたらすのは「いつも納期に追われる」職場や、「今後1年間に失業する可能性がある」状況。やっぱりそうやったんやという感じがしませんか?
配偶者といっしょに食事をする回数についてのちょっと意外で面白い結果なんかもある。ワークライフバランスがうまくとれてもあまり影響はないが、男性が「午後7時までに帰宅」できると増加するらしい。これなんかは、みんなの生活改善に役立ちそう。
実に面白くて豊富な内容なのだが、惜しむらくは、完全な学術書で相当に読みにくいということ。ぜひ、どなたかに、内容のエッセンスをわかりやすくまとめてもらいたい。ベストセラー間違いなしやと思いますけど。
『ライフ・プロジェクト』は、ある週に生まれた赤ちゃんの人生をずっと追跡調査するという、1946年に始まったとてつもない規模の英国での調査のヒストリー。社会階層がいかに固定されているか、そして下層から抜け出すには何が必要か。大学の学費免除では遅すぎるということがよくわかる。
もう一冊、『教育格差』は、膨大なデータから日本の現状をあぶり出す。親の所得、学歴も影響するが、居住地による格差が非常に大きいことに驚いた。
こういった成果は政治に活かせるはずだし、人生の岐路でも役立ちそうだ。世の中のことだけでなく、それを知るためにはデータとエビデンスが重要であることも教えてくれる3冊でした。
日経ビジネス4月10日号から転載
さすがは連合王国、こういう調査をするところに底力が見える。教育格差を乗り越えるには、小さなころに身近なロールモデルが必要という指摘は大きい。大学の学費無償化では遅すぎる。
この本も、できたらエッセンスだけを書き抜いて、周辺状況もくわえたわかりやすい本にしてほしい。ひとりでも多くの人が問題を共有しないと日本の将来はない。