恐竜についてまったく興味がないという人は珍しいだろう。地球上にさまざまな巨大生物が大量に跋扈している時代があったと思うだけでワクワクしてくる。
しかし、現在知られている恐竜たちは、子どものころ図鑑で見たイメージとはかなり違う。羽毛に覆われた恐竜がいたとか、鳥は生きた恐竜であるとか、まるでウソみたいだ。
これは、「恐竜化石の大発見時代」になり、さまざまなことがわかってきたおかげだ。『恐竜の世界史』の著者スティーブ・ブルサッテは、古脊椎動物のの専門家だ。まだ30代半ばだが、すでに15種もの新種を記載している気鋭の恐竜学者である。
この本、恐竜についてのすべてがわかるといっていいだろう。教科書的なことだけでなく、恐竜研究のパイオニアたちがいかに発見してきたか、仲間との共同研究がいかに楽しいか、そして、自身の研究の経緯も詳しく紹介されている。だから、内容はものすごくビビッドで、まるで冒険物語のようだ。
恐竜の化石だけでなく、その足跡の化石も同じくらい大切だ。生きている動物との比較、化石のCTスキャンや数理解析、さらには大陸の移動や気候変動、地層の年代決定。それらすべてが統合されて、現在の恐竜学がある。
恐竜が世界中に広がったのは、かなり偶然が大きかった。最初は細々と生きていたのが、先に大繁栄していたワニに似た爬虫(はちゅう)類が何故か急に死に絶えたため、一気にそのニッチ(生態学的地位)を占めることができた。
恐竜の時代はなんと一億六千万年もの長きにわたり続いたのだが、小惑星の衝突により絶滅を迎える。以後、それまでしいたげられていた哺乳類が世界中で活躍するようになった。
これをうけて、サブタイトルは『負け犬が覇者となり、絶滅するまで』となっている。もし隕石の衝突がなければ、恐竜はずっと生き延びて、人類の繁栄はなかったかもしれない。そんなことを思いながら鳥の姿を見ると、世のはかなさが感じられたりする。
この本や、国立科学博物館の真鍋真氏の『恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常』を読むと、恐竜の研究って本当に楽しそうだ。ただし、「むかわ竜」ことカムイサウルスの全身骨格化石を掘り出された小林快次・北海道大学教授の『恐竜まみれ』によると、それほど楽なお仕事ではないことがわかる。
恐竜化石の発掘には、砂漠などとんでもない場所へ行かねばならないし、多くの敵と戦わなければならない。その敵とは、ハイイログマや毒蛇だけでなく、化石の盗掘者であったりするとは、ちょっと怖すぎる。
危険なこともあるとはいえ、じつにロマンチックな職業だ。生まれ変わったら、こんな研究者を目指してみたい。ただ、恐竜研究で食べていける人はそれほど多くなさそうなのが気になるところではあるけれど。
(日経ビジネス10月14日号から転載)
国立科学博物館の真鍋真氏の本。恐竜研究って本当に楽しそう。
でも、この本を読むと、恐竜研究は危険でもありそう。