発売前のゲラを読んだ読み手がこぞって絶賛し、話題になった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(長いタイトルなので、『ぼくイエ』なんて愛称で呼ばれています)。この『ぼくイエ』は6月の発売以降、毎週毎週「1週間の売上記録過去最高!」を塗り替え続けており、勢いの衰える気配がありません。
ノンフィクションが、それもエッセイに近い内容のノンフィクションが、ここまで話題になったというのは久しぶりのこと。2019年のYahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞にもノミネート(大賞発表は11月上旬)され、ここからまだまだ話題になる機会は多そうです。
ではこの『ぼくイエ』。どんな方が読んでいるのでしょうか。購買層を見てみましょう。
イギリスの政治経済の状況について克明に描かれたノンフィクションですが、一般的な社会系のノンフィクションとは大きく読者層が異なっています。子どもの目を通して日常からそれらを描いた。ということで、中高生を持つ親にとっては子育てエッセイとしても読まれているようです。7割が女性読者、50代の女性が読者層のピークとなりました。10代の読者も一定層いるということもわかりました。
この読者が他にどんな本を読んできたのか。直近半年間の併読本データからランキング上位10作品を抽出してみました。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
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1 | 『むらさきのスカートの女』 | 今村夏子 | 朝日新聞出版 |
2 | 『そして、バトンは渡された』 | 瀬尾まいこ | 文藝春秋 |
3 | 『蜜蜂と遠雷[上・下]』 | 恩田陸 | 幻冬舎 |
4 | 『女たちのテロル』 | ブレイディみかこ | 岩波書店 |
5 | 『きのう何食べた?[15]』 | よしながふみ | 講談社 |
6 | 『大家さんと僕これから』 | 矢部太郎 | 新潮社 |
7 | 『渦』 | 大島真寿美 | 文藝春秋 |
8 | 『マチネの終わりに』 | 平野啓一郎 | 文藝春秋 |
9 | 『思わず考えちゃう』 | ヨシタケシンスケ | 新潮社 |
10 |
『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、 |
ヤニス・バルファキス | ダイヤモンド社 |
本屋大賞、直木賞、芥川賞…などなどこの半年の話題作が上位に並びました。ちょうど期間内に発売されたブレイディみかこの『女たちのテロル』、オビコメントを書いた『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』もあわせて売れています。
それでは併読本の中から注目したい作品をいくつかご紹介しましょう。
そのタイトルの過激さもあって、発売と同時に話題になった作品。分断された社会について考察しているということで、この『ぼくイエ』との共通点も多い本です。欧米社会を揺るがす問題にもなっている分断はなぜ発生するのか、その正体をあぶりだす作品。
奴隷貿易はなんと400年の長きにわたって続いていたのだそうです。被害者は1,000万人!この全貌が昨今明らかになってきており、一方で展開されていた奴隷貿易の廃止に向けた動きなどについても触れられています。奴隷船の中で、その奴隷たちがどういった扱いを受けていたのか、それを扱っていた人々はどんな人だったのか。歴史の闇が明らかになってきました。
子どもを持ち、教育に興味がある世代の併読本ということで「学校」や「教育」をテーマにした本もよく読まれていました。その中で気になったのがこちら、岩波ジュニア新書です。本来は自分の好きなスポーツや芸術活動を思い切り楽しむはずの部活ですが、今はブラックだの、間違った指導だの暗くなる話ばかり。日々の活動から、その改革例を提案する子どもたちのための本。
海外文学作品。発売後続々と書評などで取り上げられ注目度が高まってきています。表紙の写真が著者本人だというのも話題を集める一つ。逝去後ようやく話題になった、どころか本国アメリカでも一部にしか知られておらず、今まさに再発見された著者です。結婚と離婚を繰り返しながらシングルマザーとして4人の息子を育てたという著者本人の生き様も気になるところ。まだまだこれから話題になりそうな作品です。
最後に紹介する1冊は、新聞の全面広告で大きなインパクトを与えて世に出てきたミシェル・オバマの自伝です。元大統領夫人のサクセスストーリーと思われがちですが、読んだ人たちからは「これは私の物語だ」といった共感をもった受け止められ方をしています。貧しい中でつかみ取った未来、自分の夢を犠牲にしながら夫の夢に寄り添う共働き夫婦の姿、ホワイトハウスという特殊環境での子育て。そこには等身大の悩みとそれを前向きに解決に向けていくワーキングマザーの姿がありました。
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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は私も興奮しながら読ませていただいた1冊です。
英国で何かが起こったときの、ブレイディみかこさんの解説や文章は本当にわかりやすくて、よく読んでいたのですが、“難しい問題を難しい言葉で語らない文章のうまさ”がそのわかりやすさの理由だったのだと改めて感じています。
英国の労働者階級の状況や階級闘争の模様はこれまでも様々な映画や本で語られてきましたが、この本には「今、市民に起こっている事」が非常に良くまとめられています。誰が首相をやっていようが(ボリス・ジョンソンもそのキャラクターばかりに目が行ってしまいます)、それほど興味がなかった英国がこの本を読んで急に身近になった感じがしています。すべての問題が子どもの目線で語られる、だからこそ余計心に響くのでしょう。
しかし、それより何より、いったいどうやって育てたらこんな立派な男子が育つのか。それが一番気になるところではあります。