京セラ、KDDIという二つの世界的大企業を設立し、経営破綻したJAL(日本航空)を奇跡の再生に導いた稲盛和夫氏。不朽の名著である『生き方』は2004年8月に発売されてから15年間売れ続け、現在では130万部を突破している大ベストセラーである。私が書店で働いていた間は常に平積みで展開されていた。おそらく私が辞めた後も同様の展開は続いていたはずなので、15年間常に平積みで展開されていたことになる。
日本人の経営者の本でその期間同様にずっと平積みをされていた本は『生き方』と松下幸之助の『道をひらく』くらいであったと記憶する。経営の本まで手を広げれば『ビジョナリーカンパニー』や『イノベーションのジレンマ』など、いわゆる定番の本というのはたくさんあるが、稲盛和夫氏の『生き方』はその最たるものであるのは間違いない。
そのようなロングセラーであり、時代を超越する名著として名高い『生き方』を私はいままで読んでこなかった。目次にある宇宙の法則という言葉をみて、勝手にスピリチュアルなイメージを抱いていたからである。同時にどうして経営者はすぐに宇宙やスピリチュアルな方向にいってしまうのだろう?とずっと思っていた。
その答えを『心。』を読んで知ることができた。『心。』は私が初めて読んだ稲盛和夫氏の著作となった。この本があまりにも素晴らしかったので、読み終えてすぐに『生き方』も購入し、読み始めたところ『心。』で書かれていたことの大半はすでに『生き方』に書かれていたことであった。どうして自分は『生き方』を読まずにいままで生きてきてしまったのだろう?もっとはやくに読んでいれば、人生が変わっていたかもしれないのに……。まだ読んだことがない人はどちらでも構わないので読むことをお勧めしたい。
HONZは新刊をレビューするサイトなので、今日は『生き方』ではなく『心。』を紹介する。『心。』は『生き方』を読んだ人には、少し物足りないかもしれない。なぜなら主張していることが重複しているので、既視感があるからだ。しかし『生き方』の復習する意味で『心。』を読むのもよいと思う。『生き方』から15年たち、その中からより確信をもって言えることがまとめられているからだ。しかも書かれていることは、とても普遍的なことなので、そんな当たり前のことは誰だって知っているよ!と思う人もいるだろう。しかし知っていることと、実際にできることはまるで違うのだ。
この本に書かれていることは著者が八十余年の人生を振り返り、多くの人たちに伝え、残していきたいことである。それは「心がすべてを決めている」ということだ。すべては“心”に始まり、“心”に終わる。人生とは心が紡ぎ出すものであり、目の前で起きるあらゆる出来事は、自らの心が呼び寄せたものである。
そして人生の目的は心を高めることにある。そのために必要なのは「利他の心」で生きることだ。人生という道のりは、誰にとっても波乱万丈なものである。そこで大事なのは、いかなるときでもすべてのことに「感謝の心」をもって対応することだという。順風満帆のときは感謝の心を忘れがちだが、不自由なく生活ができるということにまずは感謝すべきだ。失ってはじめてありがたみに気づくことって生活をしているとけっこう多くあるような気がする。
また災難、苦悩、不幸といった状況に直面しているときは、さらに感謝をする「絶好の機会」だという。災難に遭ったということは業が消えたということである。だから業がなくなったことを「喜ぶ」べきなのだそうだ。なかなかその域には達することができなさそうだが、感謝の心は常に持ちたいところだ。感謝の心というのは、他者に対してへりくだる気持ちがないと出てこないものだ。いまの自分があるのは、これまで支えてくれた多くの人たちのおかげである。また謙虚な心を持つことは、悪しき出来事を遠ざけ、よい人生を送るための護符の代わりにもなるのであるという。
では心を浄化し、美しくするためにはどうしたらいいのだろう?それは目の前にあるすべき仕事に全精力をかけて没入することだ。日々の仕事に全精力を傾けることで、心が浄化される。心が澄みきった状態のとき、人は宇宙の真理ともいうべき、物事の本質にふれることができるのではないかと著者は述べている。
純粋で美しい心をもって事にあたるならば、何事もうまくいかないものはない。つねに心を磨き、自己を高めつづけていけば、いかなる苦難に見舞われようと、運命はかならずやさしく微笑み返してくれる。
著者は上記のような信仰心にも似た信念をずっと持っており、それが人生を助けてくれたそうだ。これは世の真理なのかもしれない。
宇宙の法則というのは決してスピリチュアルなものではなかったのだ。人生は心のありようですべてが決まる。それこそが宇宙の法則だという。どんな人であれ、与えられているのはいまこの瞬間という時間だけである。そのいまをどう生きるかが人生を決めるのだ。すべては“心”に始まり、“心”に終わる。自分の心を美しく保つために日々精進していかなくては。
130万部突破の不朽の名著『生き方』。名著といわれるだけのことはある。
同著の箱入り特装版。社長室や、役員室に置くならこちらのほうが映えるのでは?