本書が2019年ベスト新書になると思う。第二次世界大戦は複数の戦争の集合体だった。日米の太平洋戦争はいうまでもなく、おおまかに分けるとドイツのヨーロッパ侵攻戦争、イタリアからはじまる北アフリカ戦争、そして本書のドイツ・ソ連戦争だ。
本書によればこの戦争でのソ連の死亡者(軍人+市民)は2700万人。ドイツは独ソ戦以外の戦争も含めて最大800万人。日本は最大310万人だったという。
これまでにもイアン・カーショーの『ヒトラー』やアントニー・ヴィーヴァーの各著作などの文献や、NETFLIXやNHKBSのドキュメンタリ映像を見てきたのだが、この本ほど独ソ戦についてコンパクトにまとめられている本はない。戦史だけでなく、第3章の「絶滅戦争」では独裁者と権限が分散したナチス官僚機構、ヒトラーに対する国民の支持の源泉などについて極めてコンパクトに解説されている。
ちなみにそのことを含めてヒトラーとナチスがどのように闇に沈んでいったのかに興味のある方はNETFLIXの「ヒトラーの共犯者たち」をまずご覧になることを非常に強くオススメする。これ以上の作品を書籍を含めて知らない。10編 × 52分だが間違いなく時間をかける価値がある。
ところで、チンピラに対して自己反省をしろと強要してもあまり意味がない。自己反省というのは意外に難しいのだ。しかし、かれらに兄貴分がどんな悪事を働いたかを具体的に説明しろというと答えることができるかもしれない。
同様のことは国レベルでもあるかもしれない。いまの日本人に70年以上前にお前らの曾祖父さんたちがアジアに対して行った行為を思い出して反省しろといわれてもポカンとするだけだ。しかしドイツがヨーロッパやソ連に対して行った行為を具体的に知ると考え方も違ってくるかもしれない。その意味でも本書は価値がある。
ともあれ賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶという。現代の経営者にとって、ナチスドイツのような、競合他社への侮りや、無謀な自己肯定感、複数の戦略目標設定、部下の職掌を明確にせずに競争させることなどの危険性について学べる良きテキストになるだろう。戦争とビジネスは決して同列に取り上げるべきではないが、何らかを学ぶことができるはずだ。
自国民を大量殺戮した、史上最悪の政策は毛沢東による大躍進政策である。レビューはこちら。