毎回、「これを買った人はこれを買っています」という原稿を書いていますが、定期的に「あのベストセラーを発売すぐに買った人は、今これを買っています」という見方をしています。今年のビジネス書ジャンルでの定点観測銘柄は『FACTFULNESS』。これを発売1ヶ月以内に購入した方の動向を見ていると、7月に入って急激に売上を伸ばしてきた銘柄があります。それが『ニュータイプの時代』でした。
著者の山口周さんは『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を皮切りに、その後何冊かの著作があります。すでに注目の著者ではありますが、今作の売れ方にはこれまで以上の勢いを感じています。今回は『ニュータイプの時代』を見ていきます。
発売が7月上旬ということもあって、まだまだデータのたまり方は今ひとつですが、まずは読者層から。
ビジネス書の典型的な構成比とも言えますが、8割は男性読者。40代中心に現役ビジネスパーソン世代がまず購入しています。売上の推移を見るとこれまで最も売れたのは、日経新聞の広告が掲載された日でした。
ではどんな本を読んできた読者なのでしょうか?過去2年の購入履歴から上位10作品を抽出しました。
銘柄名 | 著訳者名 | 出版社 | |
---|---|---|---|
1 | 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』 | 山口周 | 光文社 |
2 | 『武器になる哲学 』 | 山口周 | KADOKAWA |
3 | 『ファイナンス思考』 | 朝倉祐介 | ダイヤモンド社 |
4 | 『お金2.0』 | 佐藤航陽 | 幻冬舎 |
5 | 『日本進化論』 | 落合陽一 | SBクリエイティブ |
5 | 『FACTFULNESS』 | ハンス・ロスリング | 日経BP社 |
7 | 『日本再興戦略』 | 落合陽一 | 幻冬舎 |
8 | 『劣化するオッサン社会の処方箋』 | 山口周 | 光文社 |
8 | 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 | 新井紀子 | 東洋経済新報社 |
10 | 『the four GAFA』 | スコット・ギャロウェイ | 東洋経済新報社 |
10 | 『Think clearly』 | ロルフ・ドベリ | サンマーク出版 |
知名度の高いビジネス書ベストセラーが並びました。もう少しアート寄りの本が入るのではないかと想像していましたが、かなりビジネス寄り。冒頭で触れたとおり、『FACTFULNESS』は5位にランクイン。今ぐんぐん売上を伸ばしている『Think clearly』も10位にランクインしています。
山口さんのこれまでの著書も上位に並びました。著者が読者を獲得しどんどん知名度を上げてきている、新刊を待っている読者が多い、ということがここから推測できそうです。
では『ニュータイプの時代』読者の併読本から気になるものをいくつかご紹介します。
4月の発売以降『Think clearly』が勢いよく売れています。そんな矢先に出てきた本だったので、「なんだなんだこれからビジネス書には『Thinkなんとか』ブームが来るのか!?」と身構えたのですが、はたしてその実態はいかに。『Think CIVILITY』は6月末に発売された新刊ですが、こちらも良く動いています。礼節がいかに大事な事か、その環境がいかに効率をもたらすかといった事が科学的に語られています。事例に書かれた事は心に刺さる事ばかり。テーマゆえ、女性読者にも多く手に取られています。これからまだまだ大きく伸びそうな注目本。
Netflixという言葉を初めて聞いたのは、いつ、どこで、どんなタイミングだっただろう…と今思い返してみても思い出せないのですが、気づけばGAFAを超える存在になってきています。GAFA企業と異なり、スタートアップの様子や創業者の姿は日本人にはそれほどなじみのないものだったのではないでしょうか。
気づけば世の中はレンタルから配信へ完全にシフトしてきました。これまでの成長の軌跡、これから何が起こるのか、映像の未来を考える1冊です。
若者の車離れ、高齢者の免許返納問題…と車を取り巻く話題は後をたちませんが、自動車は自動車メーカーのもの。という世の中や発想はそろそろ終わりになりそうです。車がどう進化するか、だけではなく、人々の移動がどうなるのか。そのときのプレイヤーは誰になるのか。自動車のビジネス領域は大きく変わろうとしています。こちらは、モビリティという新しい概念の未来についてのアクセンチュアの最新予測。
『イノベーションのジレンマ』の著者の最新刊。これまでも刺激的なイノベーション理論を提起し続けてきたクリステンセンが今回は「貧困」を眠れる巨大マーケットとし、そこに成長があると説きます。貧困をとりまく「無」消費経済こそが成長が見込める市場であり、それは戦後日本の極めて貧しい姿に重なるものだと訴えます。そこからどんな未来が見えてくるのでしょう。
もう少し美や芸術っぽい併読本がないものか、とリストを確認していったところここにひっかかりました。しかもオビは石野卓球が書いています。いまや成人誌の売場は減り、入手しづらくなり、雑誌ビジネスとしての厳しさは増すばかりです。このタイミングで「1946年から2018年までの創刊号100冊をオールカラーで完全紹介!」というのは、資料価値から考えてもなかなかに凄い本でしょう。
『ニュータイプの時代』というタイトルを見て、一瞬ガンダムの事がアタマをよぎりましたが、そうではありません。著者はこう定義しています。
【オールドタイプ】課題に向き合わずに、イノベーションという手段にこだわる
【ニュータイプ】手段にこだわらず、課題の発見と解決にこだわる
あらためてこう言われると当たり前のことのように見えますが、だからこそ日常当たり前にやっている思考を一度止めて自分を振り返る機会が必要なのかもしれません。
「ニュータイプ」も今年を代表するビジネスワードになってくる気配があります。ぜひいまからご注目を!