本書は、ベストセラーになった共同通信社の橋本卓典記者による、『捨てられる銀行』シリーズの続編である。また日本版「金融排除」の問題点を鋭く指摘した著者の『金融排除 地銀・信金信組が口を閉ざす不都合な真実』と同じ問題意識に立脚している。
バブルの崩壊と「金融処分庁」による圧政の時代を経て、企業の実態を見る力を失ったことが、銀行というビジネスモデルを根幹から揺るがしている。
2015年の森信親長官の時代になり、金融庁はようやく時代の役割を終えたことを自ら認め、「金融育成庁」に転換し始めた。しかし、銀行はもはやリスクテイクという金融の本質を忘れ、目先の利益だけを追う存在に変質してしまった。不良債権を生み出しにくく、貸し渋りをしない、それでいて地域と顧客には寄り添わない「異様な健全銀行」が続々と誕生したのである。
そして、この期に及んで投資信託の回転売買と手数料の高い保険商品を優先し、顧客が必要としない「売れ筋」商品を売りつけようとセールストークを磨いてきたのが銀行の実態である。
人々はようやくこの異常さに気づき、銀行に愛想を尽かし始めた。そして、平日午後3時までに銀行に行かなければならない無意味さを悟り、銀行に足を向けなくなっている。
銀行は今、根底からその存在意義を問われているのである。
森長官は、「企業の事業性や将来性を見極める事業性評価」「顧客との共通価値の創造」「顧客本位のビジネスモデルの確立」といった、これまでとはまったく異なる、新たな顧客本位の方針を打ち出した。
それは、テクノロジーが進展し、人々の価値観が大転換する「不確実性に満ちた未来」に対し、金融業界も金融行政も先手を打って備えなければならないという強い問題意識から発せられたものであった。
しかし、多くの銀行はそのメッセージをまともに受け止めず、「長官一代限りのイベント」と高をくくり、「変わらない」という選択をしてきた。
「捨てられる銀行」は、見えない未来に向き合わない。人工知能やフィンテックといった新技術、10〜20代の「Z世代」の新たな価値観が、銀行の店舗やカウンターや人員の意味を根底から変えようとしていることを理解しようとしない。人と人の「つながり」や「共感」がかけがえのない事業価値となる時代の到来にも気づかず、これまで通りの数値とノルマと地位と報酬によって人間を管理し、会計とコストだけで組織や人心までもコントロールできるという古代信仰を捨てない。
これからの銀行が生き残るためには、担保や保証に頼るのではなく、事業の将来性を見極め、未来と真剣に向き合わなければならない。にもかかわらず、目で見える「計測できる世界」でしか物を見ようとしない。
かつてフランス皇帝ナポレオン1世は、「おまえがいつか出遭う災いは、おまえがおろそかにした時間の報いだ」と語ったが、森長官時代の金融庁改革は何だったのか、今一度熟考してみる必要がある。
本書は、心ある銀行員、金融行政に携わる役人、地域経済を支えている事業者や関係機関には、是非、手に取っていただきたい一冊である。
※週刊東洋経済 2019年6月1日号より転載