厚さは約4.5cm、総ぺージ数696の大型本だ。重さは1kg以上。我が家のキッチンスケールの針が振り切れたので計測不能だった。
2008年9月から2014年7月まで1052回にわたって地方紙に連載された五木寛之の長編小説『親鸞』に添えられていた挿画の総集である。もちろん1052点の挿画は原画通りフルカラーで収録されている。
若い世代には、五木寛之の小説を読んだことはないが、山口晃の絵は好きだという人も多いかもしれない。私もその口で、この挿画集は楽しみにしていた。
山口晃の絵の魅力は見る側の想像力をかならず超えることだ。代表的な作品イメージとしては、狩野派のような金雲を使った画面構成で現代と近代が融合した繁華街を俯瞰し、さらに機械仕掛けの馬に乗った戦国武士まで登場させるという、時間と空間を横断した作品だ。その筆致は精密で、画家の奇想をそこかしこに見つけ出す楽しみもある。下手をすると絵の前に30分は佇むことになる。
しかし新聞掲載の挿画では、金泥も緑青も使えない。掲載時には縮小され、モノクロ印刷になることが多いからだ。そのため画家の奇想は見つけ出しやすいはずなのだが、画家はそれを許さない。
水墨画風、王朝絵巻風、西洋エッチング風、四コマ漫画、あらゆる手法を繰り出して見る者を挑発する。ゴッホへのオマージュであったり、蛍光電子顕微鏡の画像風であったり、劇画調であったり、頭を使って絵を見る楽しみがある。一本の線にため息をつくこともある。
画家にとってこの連載はある意味で修行であったらしい。小説家は主人公親鸞の顔を描くなと厳命していたというのだ。江戸時代に女役者を禁止された歌舞伎の歴史を紐解くまでもなく、ある種の制限は芸術にとって肥やしになることもあるはずだ。
絵も素晴らしいが、添えられた文もまた秀逸。山口晃ワールド全開の「読める画集」である。
※『週刊新潮』 2019年3月21日号