先日「笑点」の演芸コーナーに神田松之丞が登場した。わずかな時間の中で講談という芸を説明し、そのさわりを読みたて、大喜利へ笑いを繋いだ。途中くすぐりを入れたにもかかわらず収録会場は一瞬静まりかえる。演者の迫力に押されて、観客は息を飲んでしまったのだ。
神田松之丞は弱冠34歳の二ツ目にして、昨今もっともチケットが取れない芸人のひとりだ。
いまや人気絶頂の落語にくらべて講談は長らく息を潜めてきた。源平盛衰記などの堅苦しい軍記物を女流が読む、というイメージがすっかり定着してしまい、ラジオ時代の残滓のようなものになりつつあった。
そこへ突如彗星のごとく登場したのが、まっちゃんこと神田松之丞だ。昭和30年代の落語低迷期を救った古今亭志ん朝を彷彿とさせるキレとスピード、臨場感と声量。そしてなんといっても講談師らしい男前と眼力が魅力だ。
本書は、いつかは名人と呼ばれることになるであろう講談師と、文芸評論家にして作家でもある杉江松恋の掛け合いで構成された読み物だ。しかし、けっして安易な対談などではない。杉江の絶妙な方向付けと補足説明、そして丁寧な裏取り取材を適度に入れ込んだ、まさに講談のようなリズム感溢れる一冊に仕上がっているのだ。
松之丞は立川談志の落語を聴いてこの道に進むことを決心し、講談師の神田松鯉に入門するまで、ただひたすら落語や歌舞伎などの伝統芸能を客として見続けた。本書でも、「客時代が短い人(芸人)は変な判断をすることが多い。変っていうか、浅いんですよね」とある。
日本の伝統芸能は能、文楽、歌舞伎、講談、落語、浪曲などが相互に影響しあって発展してきた。よき客がいるからこその日本独自の文化である。その一翼を担ってきた講談がこの男によってどのように蘇るのか。
丁度お時間となりました。この続きはまた次回。
※週刊新潮より転載