『こわいもの知らずの病理学講座』情報の洪水に溺れる前に

2017年10月6日 印刷向け表示
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こわいもの知らずの病理学講義

作者:仲野徹
出版社:晶文社
発売日:2017-09-19
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 うちは多分、がん家系だ。父は珍しい腎臓がんに始まり、胃がん、皮膚がんの果てに88歳で末期の肺がんが見つかりこの世を去った。最近、弟に初期の胃がんが見つかり内視鏡で切除した。かなりまずい。 

医師の告知が普通になり、インターネットで情報が簡単に手に入るようになった。命に関わるだけでなく生活の質(QOL)を向上させるためにも、正しい病気の知識を解説した本が欲しいと思う人は多いだろう。

著者の仲野徹は大阪大学大学院医系研究科教授で病理学を教えている。「エピジェネティクス」という最先端医学の泰斗であり『幹細胞システムにおける細胞分化機構の解明』という研究で日本医師会医学賞も受賞している立派な研究者なのだが、猛烈な読書家であり、趣味は義太夫語りという多趣味で多才な人でもある。

仕事柄、人から病気について尋ねられることも多く、一般の人の知識不足を嘆いていたある日、ふと気づく。「自分で書いてみよう」。

本書は医学部の基礎的教科書を下敷きに、細胞とは何かから始まり、細胞が集まった組織、組織が集まった臓器の成り立ちや損傷、死を踏まえ、血液学やDNAについても中学生レベルの生物学の知識があれば理解できるように詳述されている。

圧巻は第三章と第四章のがんに関する総論と各論だ。基礎知識をきっちり解説したうえで、各部位のがんの違いや治療の歴史、そして何より知りたい「がんはどこまで治せるか」という疑問に対し、多くの文献と研究成果から「ここまでは信じていい」というギリギリまでを提示していく。

書店の医学書の棚では一般向けのがん関連書が花盛りである。基礎知識が不足していると「これで治る」「あれを飲め」「それで予防しろ」、挙句の果ては「何もするな」という本の洪水に溺れてしまうだろう。結局自分に都合のいいことしか信じず手遅れになってしまうかもしれない。

次々と発表される最新の治療法も紹介していく。例えばアンジェリーナ・ジョリーの乳がんの予防的乳房切除の理由など、図表も多用され、細胞の専門家だからこそできる分かりやすさだ。

患者にならなくては直面しない治療費のことも、知っているといないとでは心構えに大きな違いが生じてくるだろう。

タイトルの「病理学」とは「病気はどうしてできてくるのかについての学問」。孫子曰く「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」。病気の不安を払拭できる(かもしれない)一冊である。(週刊新潮10月12日号より転載)

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エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)

作者:仲野 徹
出版社:岩波書店
発売日:2014-05-21
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塩田春香のレビュー  村上浩のレビュー 青木薫のサイエンス通信   

なかのとおるの生命科学者の伝記を読む

作者:仲野 徹
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 成毛眞のレビュー

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作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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