ラフカディオ・ハーンと聞いてピンと来なくても、『怪談』を書いた小泉八雲という外国人だと言えば分かる人は多いだろう。
1890年(明治23年)に来日し、日本の文化に魅入られ亡くなるまでの14年間、英語教師をしながら日本の物語を欧米に紹介し続け、晩年には帰化して日本人となった。
来日する以前、ハーンはアメリカで新聞記者として活躍する傍ら、物語やエッセイなども精力的に執筆していた。本書もその中の一冊で、10年間滞在していたニューオリンズで、その土地独特のクレオール料理に興味を持ち、本書を完成させたという。ハーン自身の版画による挿画もたくさん収録されている。百年の時をこえ1998年で出版された本の復刻版だ。
ニューオリンズはルイジアナ地方に入植したフランス人とスペイン人、有色人種が混じりあった独特の文化(クレオール文化)を持っている。料理もザリガニや亀などこの場所ならではの食材を使い、ほかにはない味が生まれた。最近では日本でも、ピラフのような「ジャンバラヤ」や魚介のスープの「ガンボ」(本書ではゴンボと呼んでいる)などがファミリーレストランに登場するようになったが、まだなじみは薄いだろう。
本書は新米の主婦を対象にした、とハーンは語る。基本的なスープの取り方やソースの作り方から始め、材料や量、下拵えの方法、加熱時間、味付け、盛り付け方、保存方法やちょっとしたコツまで、懇切丁寧に説明していく。
メインの魚料理、冷製肉、獣肉、鶏肉、野菜料理、卵料理のほかに、パンの焼き方、ケーキやプディング、果実酒などデザートまである。なんと病人や病み上がりの人のための胃腸にやさしい料理まで網羅されているという念の入れようだ。
ハーンは相当な食いしん坊だったに違いない。気に入ったレストランがあると近くに引っ越ししたり、友人からレシピをしつこく聞いたりしていたようだ。料理や家事の心得など、こだわりは相当のものだ。
日本に帰化し「小泉八雲」となってからも、クレオール料理が食べたくなる時があっただろうか。そんなことが気になる一冊だ。(信濃毎日新聞5/21掲載)