大げさな話でなく「本の雑誌」が無かったら、今の私も無かっただろう。
本の虫だった高校時代、何人かの本好き友人はいたものの新しい情報に飢えていた時、週に数回通っていた書店で新しい雑誌を見つけた。「本の雑誌」というシンプルなネーミングで中を開いてみると、新しい本の情報や本にまつわるモロモロの話が書かれているではないか。とりあえずと買い求め、読んですぐファンになった。
創刊2号だったので、創刊号が欲しいと思ったのだが電話をするのが恥ずかしくて、結局手に入れずじまいだった。それからあとはその書店に予約して、入ったら連絡を受けて買いに言ったり、定期購読をしたりして何十年と取っていた。
大学が長野の僻地だったので、新刊情報は「本の雑誌」だけが頼りだった。1か月に一度、松本に本を買いに行くときに、付箋を貼った「本の雑誌」を携帯していった。北上次郎さんのオススメ本をいったい何冊買っただろう。田舎にいても新刊から遅れずについていけたのは「本の雑誌」のおかげなのだ。書評という仕事があることを知ったのも「本の雑誌」からだった。
それから約20年後、敬愛する「本の雑誌」で連載を持たせていただけると聞いたとき、「ああ、本を読んできて本当によかった」と心から思った。HONZ代表、成毛眞もかつて「本の雑誌」の愛読者であり三角窓口へ投稿も行っていたと聞き、おお、仲間だ!と感激した。HONZもいわば「本の雑誌」があったからこそ、立ち上げられたサイトなのだ。
現在、町田市民文学館「ことばらんど」で『本の雑誌厄よけ展』が4月22日から6月25日まで開催されている。私も寄稿と参加を求められたので、どのような展覧会か出かけてみた。「椎名誠×目黒考二」トークショウ(終了)、「本の雑誌」編集者による座談会(終了)、北上次郎講演会、坪内祐三講演会、沢野ひとし×木村晋介対談、などイベントも人気を博しているようだが、私は平日の午後、ひっそりとしているだろう会場へ足を運んだ。
予想通り先客はひとりだけ。文学館の2階全部が展示になっており、思ったより大規模だ。創刊号からずらりと並んだ表紙の展示が迫力満点。関係者の写真とコメントも壁いっぱいに貼られている。
早逝した吉野朔美さんの原画が涙を誘い、目黒さんがかつて住んでいた本に囲まれた魔窟の写真が恐ろしい。本屋大賞第1回目の授賞式の映像が流されており、12年前の若い書店員や編集者の顔が見える。
このイベントのために、何人かがオススメ本30冊を選んでいる。私もそのひとりだが、会場にはその本は揃えられておらず、ご自由にお持ちくださいの紙が1枚あるだけ。せっかく選んだのだから、ここに紹介する。
(なお、写真は文学館の了解を得て撮影しました。本の紹介も了承されています)
東えりか・オススメ31冊「女の一代記(評伝文学含む)」
著名な作品が多いが、そのなかでもオススメは…
・西村京太郎『女流作家』は盟友でありパートナーでもあった山村美紗を描いたもの。赤裸々さに度肝を抜かれた。
・山崎豊子『アジア女性交流史』は作家のライフワーク。
・『吉野朔美は本が好き』早すぎる死を悼む。
・ジョナサン・コット『転生ー古代エジプトから蘇った女考古学者』この本を読むと輪廻転生を信じたくなる。
・養老静江『ひとりでは生きられない ある女医の95年』養老孟司の母で、恋愛一途な女医の奔放な物語。再刊されていた。(リストを作ったときには気づかなかった)