待望の『ギリシア人の物語Ⅱ』が上梓された。急速に隆盛し急速に衰退したギリシア人の歴史を著者は三巻にまとめると最初に語っている。ならば第二巻は物語のピークだ。
民主政治の創始者であるギリシア人、それもとくにアテネで活躍した政治家たちは現代を映す鏡となっている。民主主義はどうあるべきか、リーダーはどのような人が好ましいか、民衆は政治にどこまで関与すべきか、など昨今のニュースと思わず比べてしまう。特にリーダー論は学ぶべきことがたくさんあると感じた。
第一次、第二次のペルシア戦役を勝利し、アテネに新しい時代が始まった。ギリシア人勝利の立役者だった知将テミストクレスは陶片追放されたが、その衣鉢を継ぐ若き政治家、ペリクレスが現れる。
彼はアテネ政界に強い人脈を持ち、富裕階級アルクメオニデス一門の出身で、極めて貴族的な男だった。意に染まないことは決してせず、演説は静かで、聴衆に考えさせるものだったという。彼の唯一の武器、それは「言語」であった。
このペリクレスこそ、民主政を成熟させた英雄である。アテネの統治能力のさらなる向上に努め、エーゲ海の制海権を堅持すること。およびギリシア都市国家をまとめるデロス同盟をいかに円滑に存続させるか、ということに心を砕いた。それには海軍の力を着実に付け、戦争に巻き込まれないようにしなければならない。その舵取りのすべてを、ペリクレスは見事にやってのけた。
ギリシア都市国家の中で最大のライバルであるスパルタとの休戦条約を結び、超大国ペルシアとも講和条約を成立させ公式な外交関係を樹立。約30年の平和をもたらしたのだ。
その上で女神アテナに捧げるパルテノン神殿をアクロポリスの丘に建設し、アテネ市民を熱狂させた。
だが成熟の次にくるのは腐敗だ。本書の後半はペリクレスの死後、衆愚政治に突入していったアテネを描いていく。優秀なリーダーを亡くしたのち、政局は混乱しはじめる。次に現れたペリクレスが養育した美丈夫の若き政治家、アルキビアデスもペリクレスの代わりにはならず、アテネの衰退し、読む者の心は暗くなっていく。唯一、プラトンの『饗宴』に書かれたアルキビアデスとソクラテスのボーイズラブ的な描写ににんまりするくらいだ。
ペリクレスの死後わずか25年でアテネは自滅する。この先はどうなると気が急くが、それは三巻目が出るまで待つことにしよう。(週刊新潮2月23日号より転載)
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