『住友銀行秘史』が売れています。ノンフィクションジャンルでは発売たちまち大重版という言葉はなかなか聞かれないものなのですが、これはその希有な作品となりました。
HONZレビューが掲載された10/12段階ではすでに売上率が50%程度になっていましたから、品切れ店も続出していたと思われます。すごい売れ行きです。
発売後、もっとも早い動きは10/7にありました。この日は日経新聞に広告が打たれています。この日経新聞の広告はその後も定期的に打たれていて、10/14、27、11/10…と毎回大きな売上の山をつくっています。特に、27日の広告掲載後に日経新聞のベストセラーコーナーで取り上げられたことは売上に大きく寄与しているようです。
新聞広告が効かなくなっている時代などと言われていますが、こういう事例もまだまだたくさんあるのです。
それでは、この読者層を見てみましょう。(WIN+調べ)
発売以降の購入者を見てみると、やはり圧倒的に男、ピークは60代、なかでも60代後半の読者が多め。男性読者のクラスタの形は石原慎太郎の『天才』と似たかたちになっていますが、あちらは女性読者が同じ程度いるというところが異なっているところです。
RANK | 分類 | 書名 | 著者名 | 出版社 |
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1 | 文藝 | 『天才』 | 石原 慎太郎 | 幻冬舎 |
2 | 新書 | 『言ってはいけない』 | 橘 玲 | 新潮社 |
3 | 新書 | 『捨てられる銀行』 | 橋本 卓典 | 講談社 |
4 | 文藝 | 『陸王』 | 池井戸 潤 | 集英社 |
5 | ビジネス | 『シャープ崩壊』 | 日本経済新聞社 | 日本経済新聞出版 |
6 | 新書 | 『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』 | 上念 司 | 講談社 |
7 | 雑誌 | 『文藝春秋』 | 文藝春秋 | |
8 | 文庫 | 『七つの会議』 | 池井戸 潤 | 集英社 |
9 | 新書 | 『キリンビール高知支店の奇跡』 | 田村 潤 | 講談社 |
10 | 新書 | 『文藝春秋』 | 文藝春秋 |
銀行関連、経済関連の書籍が多く並びました。池井戸潤の小説が2作入っているのはこのジャンルならではといった感じでしょうか? 池井戸作品はまだまだ売れていますから、書店さんには話題の銀行ものもあわせて提案して欲しいところです。
気になったので、『住友銀行秘史』を発売から1週間以内に購入した方についても見てみました。クラスタの特徴は40代・50代のシェアがあがっていること。現役ビジネスマン世代が多く購入されているようでした。
『最後の秘境 東京藝大』も上位にランクイン、これはHONZファンでしょう。それでは読者の併読本から注目作品を紹介していきます。
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『住友銀行秘史』を初期に購入した方がこぞって買いに走っているのがこの『バブル』。これから話題になること間違いなしでしょう。日経新聞での取り上げと、その後の反応をこちらも見てみたいところです。 ※成毛眞のレビューはこちら
新書で発売され話題になった『絶望の裁判所』の著者が書いた小説です。著者は城山三郎賞の受賞者ですので、本領発揮といったところ。裁判所組織のトップに君臨するエリートと、それに翻弄される司法エリートたち。なかなか見えなかった組織が小説の姿を借りて明らかになってきます。
裁判所といえば、『密着 最高裁のしごと――野暮で真摯な事件簿』も読まれていました。 読者には、裁判所関係者が多いのでしょうか?
俄然注目を集める観光ビジネス。地方創生というテーマともあわさって、さらにこれから熱を帯びてきそうです。国策としての観光立国化が期待される中、やるべきことは何なのかを問いかける1冊。
政治経済関連の本が並ぶリストの中、異彩を放っていたのがこちら。ジャンル問わず隠された真相が好きな層がいるのか、プロレスファン世代とイトマン事件世代が被っているということなのか、謎は深まるばかりです。
粉飾決算や不正経理、脱税などなど、会社を舞台にした経済事件の数々を紹介、解説を行うとともに内幕を明らかにしています。うちの会社でももしかして…という不安を持つかたはぜひ本書の7つのチェックポイントをおためしあれ。
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改めて併読本リストを見ていると、小説が多いのが印象的でした。実は今、小説が売れない時代と言われていますが、これまで以上にノンフィクション読者と、小説読者は混ざりあってきているようです。
田中角栄ブームが来たように、バブル以前の経済に注目が集まる流れはしばらく続くのかもしれません。かたや現実の社会はトランプ大統領の誕生に向けてざわざわ、東京オリンピックも近づいてくる…と目が離せない日々が続きそうです。