うつ病と双極性障害(躁うつ病)を含む、気分障害患者数がとめどもなく増加しつつある。厚労省の調べでは1996年の患者数は43万人あまりだったが、2008年には100万人を突破した。とりわけ30代のうつ病が増えてきているというのだ。団塊の世代と役割を交代するべき世代がダメージを受けている。会社組織だけでなく国家をも危うくする事態だといってもよいかもしれない。
その問題に精神医学ではなく、寄生虫学や感染免疫学を専門とする医学者が答えたのが本書『こころの免疫学』である。目に見えない脳の中ではなく。目に見える腸の中に注目して、患者にとっても具体的な処方箋を出している。
書評の掟を破って、いきなり結論のいくつかを紹介しよう。「やる気」を出すための神経伝達物質ドーパミンも、幸せを感じるために必要なセロトニンも、その前駆体のほとんどすべては腸で作り出されている。そして、腸内細菌がその前駆体を作りだすカギなのだ。ここでは腸内細菌を増やし活性化する食事法について細かく書かれている。
著者はさらに糖尿病とうつ病との連関、コレステロールとうつ病との関係などにも触れ、糖尿病を劇的に改善する糖質制限療療法も自分で試してみている。わずか2週間で血糖値も中性脂肪もうつ気分も劇的に改善したという。
じつは評者も2か月前から糖質制限食に切り替えている。著者と同じく2週間で体重が4キロほど落ちた。この制限食のよいところは、肉魚野菜をたらふく食べてもよく、赤ワインも焼酎も飲み放題だということだ。夕食は居酒屋のメニューのごとくなるのだが、すばらしく効果的だ。本書は最新の食に関する医学の知見を判りやすくとりあげていて過不足がない。
社内食堂のメニューや会社の健康管理にこの知見を応用することで、気分障害に悩む社員を減らし、生活習慣病による生産性の低下も防ぐことができるかもしれない。会社の病を治すまえに、社員の病を治すのが経営の本質なのかもしれない。