全く役に立たない。本当に役に立たない。これっぽっちも役に立たない。つまり、目的を持って読んではいけない本の典型的な例だ。
HONZ編集長・内藤順によるレビュー内の一文に、心が揺さぶられました。
ためになることを追求し、人生のヒントを得られるのが本だ! そんな肩肘張った毎日を吹っ飛ばす一冊『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』が、今飛ぶように売れていっています。
発売と同時に売れる兆しは見せていましたが、HONZレビューをきっかけにさらに数字が伸びています。ただ、残念なことに市場在庫が少ないため、「売上爆発」までに至っておらず、重版が出来上がる度にグラフが跳ね上がる状況が続いています。ここからどんどん数字を伸ばしていくでしょう。
こういった事情もあって、購入者はまだそれほど多くなく、読者層クラスタは傾向を見るまでに至っていません。現段階での購入者のクラスタがこちら(発売~10/8まで)。
幅広い層で、満遍なく売れているという印象があります。ただ、肝心な大学生世代はこのデータからは見えてきません。内藤順いわく、“本書を読んでも、決して藝大に入れるようにはならないだろうし、こういう風に自分がなりたいとも思わない。” そうなので、まあそれはさもありなんという結果でしょうか。
少しヒアリングをしてみると、もう一つの事実が浮かび上がってきました。新潮社の編集者の話を伺ったところ、この本、藝大や美大の出身者にはほとんど面白がられないのだそうです。あまりに当たり前の日常過ぎて面白さがわからないのだと。とは言いながらも、この本が最も売れている地域は「上野」です。手元数字だけで見ても、売上の1割以上は上野駅界隈で売れているのです。
なんだかんだ言いながら、藝大生も面白がって購入しているのか。上野を訪れる美術ファンが購入しているのか、興味は尽きません。
続いて併読本を見ていきましょう。
RANK | 中分類 | 書名 | 著者名 | 出版社 |
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1 | 新書 | 『言ってはいけない』 | 橘 玲 | 新潮社 |
2 | 新書 | 『世界史の転換』 | 佐藤 優 | PHP研究所 |
3 | 新書 | 『京都ぎらい』 | 井上 章一 | 朝日新聞出版 |
3 | 一般文藝 | 『倒れるときは前のめり』 | 有川 浩 | KADOKAWA |
3 | 一般文藝 | 『サブマリン』 | 伊坂 幸太郎 | 講談社 |
3 | ビジネス | 『プライベートバンカー』 | 清武 英利 | 講談社 |
3 | 一般文藝 | 『プラハの墓地』 | ウンベルト・エーコ | 東京創元社 |
3 | 新書 | 『中東複合危機から第三次世界大戦へ』 | 山内 昌之 | PHP研究所 |
3 | コミック | 『3月のライオン[12]』 | 羽海野 チカ | 白泉社 |
上記は『東京藝大』購入者が2016年1月以降に購入したものの上位作品です。リストの中で目立つのは新書と小説でした。目的追求型ではない読書ということで、小説読者とは相性が良いのかもしれません。
それではリストの中から注目本をご紹介しましょう。
ためにならなさでは、『東京藝大』とどっこいどっこい。そもそも南伸坊さんそのものが、芸大サイドの人でしょう。本人術がついに完結し、単行本として刊行されました。表紙のドナルド・トランプを見ただけでも数分笑えます。辛いことがあったときこっそり見て笑顔になるために仕事机の中に忍ばしておくのもよいでしょう。この本人術を30年間やり続けているということにも凄みを感じます。
鑑定番組を見ていると「作家の●●さんの手紙です」というのが出てきますが、漱石は絵はがきだけは手元に大事に残していたのだそうです。漱石との交流の様子を知ると同時に、その人々の新たな側面を浮かび上がらせる一冊。
ほのぼのとした絵はがきとはうって変わって、こちらで出てくる手紙は深刻。昔の文豪から最近の作家まで、作家と〆切の戦い(?)が目の前で繰り広げられます。自分だって〆切に悩むことは多くあるのに、人の苦しみはなぜエンターテインメントになってしまうのだろうか。これを読んだって、自分に科せられた〆切が遠ざからない上に、読んでいる時間があるくらいならそれに取り組めばいいのに。とか。今話題の作品です。
原田マハは『楽園のキャンバス』『暗幕のゲルニカ』と、アート系小説で高い評価を得ています。小説好きがこれをきっかけに美術に興味を持つようになったという話しもよく聞くほど。市の財政難から存続の危機にさらされることになった、デトロイト美術館。その存続の可否を巡って全米に大きな論争が起こりました。その実話を元に描かれた最新作は美術ファンにも高い注目を集めています。
どうして文春ばかりスクープを連発できるのか?。「文春砲」という言葉まで出来たほど注目された週刊文春ですが、最近は文春の記者や取材体制に読者の興味が移ってきているようです。
週刊文春に20年間在籍した記者が取材の裏側を明かすという衝撃の1冊がこちら。激務、スクープへのプレッシャー、緻密な舞台裏。それらが白日の下にさらされます。まだ記憶に新しい事件の内幕も!
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子育て中の母親としては、どういう子育てをするとこういうカオスな天才が作られるのかが気になって仕方ありません。良い意味で「親の顔が見てみたい」し、行方不明になった半数の卒業生の追跡もしてほしい。まだまだ本編が売れている最中なのに、続編への期待が高まっています。
『最後の秘境 東京藝大』はこれからさらに売れ、読者を広げていくでしょう。どんな社会現象を巻き起こすのか今から楽しみです。