週刊文春が年明け以降、特ダネを連発している。芸能人や政治家の不倫、現役大臣の金銭授受問題、イケメンハーフ顔のニュースコメンテーターの経歴詐称まで。文春の報道を新聞やテレビが後追いするのはもはや見慣れた光景だ。
なぜ文春がスクープで快走できるのか。週刊文春の元記者による20年の取材生活をまとめた本書を読むと、鮮やかなスクープは地べたを這いずり回る地道な努力の積み重ねであることがわかる。
人気デュオ「CHAGE&ASKA」のASKAが覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕されたのが2014年9月。発端となったのが、逮捕9カ月半前の文春の「シャブ&飛鳥の衝撃」報道だった。
病的にむくんだ顔で薬物を吸引している現場を暴力団にビデオで隠し撮りされ、脅されているのを著者がすっぱ抜いた。
本書では雲をもつかむようなゴシップ情報からビデオの存在にたどり着くまでの取材の過程が臨場感あふれる形で描かれている。知人との世間話で知ったASKAの薬物依存の噂話に引っかかるものを感じ独自に取材に乗り出す。調べ始めたものの、関係者にあたったところで全く収穫がない。驚くのはその数で100人以上!根負けせずに取材を続け、「クスリは知らないが、ASKAとヤクザはずぶずぶ」という証言にようやく突き当たる。
取材対象を変え、質問の内容を変え、ASKAサイドに気づかれないように、外堀を確実に埋めていく様はスリリングだ。情報を固め、最後はASKAへの直撃取材も敢行。「あれはウソれすよぉ~」とろれつが回らず、意味不明な発言を繰り返すASKAの姿からは記事の確度の高さをその時点でうかがわせた。
巨大組織にも立ち向かう。04年には「NHK紅白プロデューサーが制作費8000万円を横領していた!」とスクープ。最終的には海老沢勝二会長(当時)の辞任につながる報道となっただけに、覚えている人も多いだろう。内部の協力者との深夜のファミレスでのやりとりや、NHK広報との応戦は読んでいるこちらが、手に汗を握る。
芸能人、巨大組織、テロ集団から有名スポーツ選手の親まで。迫る対象は変わっても、著者の姿勢は同じだ。直接、人に会って話を聞くという大前提は変わらない。
たれ込みやリークが多くても、よほどの物証がなければ、当然ながらすぐには文字にはならない。粘り強い取材をしたところで日の目を見るのはごくわずかだ。
そのためには、感度も必要だろう。今年、文春がぶっ放した、現役閣僚の金銭授受疑惑はネタ元が大手紙にまず持ち込んだが相手にされずに、文春が記事化にこぎ着けた。
「文春ばかりに情報があつまる」との指摘がある。当たり前だろう。影響力のある報道をすれば、ネタの提供が増え、好循環が生まれる。競合他社は羨むが、もちろん、一朝一夕ではできない。出版不況の荒波に晒されても、ひとりひとりがファイティングポースをとり続けてきた結果であることを本書は教えてくれる。