多くの感動と興奮を残して、リオ五輪が終了しました。勝ち取った数多くのメダルは、続く2020年の東京に向けて、次のヒーロー、ヒロインたちを育ててくれる物になるのでしょう。そこで、今回はオリンピックでメダルを獲得した競技について、その関連書の動向や読者の併読本を見てみたいと思います。
8月末からオリンピックを総括するグラビアや関連書の発売が相次いでいます。その中で今もっとも売れているのが『Number PLUS リオ五輪永久保存版 東京へと続く物語。』(書籍、ムックの8月~9月のWIN売上ランキングより)。
まずはこちらの読者層を見てみましょう。
商品の特性上競技者というよりは、スポーツ観戦好きが読者層になりますが、40代、50代が読者の中心となっており、30代以下で激減。これからの時代を担う層へのリーチはまだまだといった感じです。
この永久保存版読者の多くは、他社から発売されている写真集なども併せて買う複数購入者が多いようです。リオオリンピック、イチローの3000安打、そしてすでに売り場の熱も高くなってきている広島優勝…など今年の夏のスポーツグラビア市場はなかなかの盛り上がりを見せています。
さて、続いて、競技者たちを支える専門雑誌について見ていきましょう。下記はリオ五輪でのメダル数と、それぞれの競技の主な専門雑誌を一覧化したものです。書店で市販され一定数の販売数がある定期雑誌を選んでいます。
競技名 | メダル数 | 主な専門雑誌 |
---|---|---|
柔道 | 12 | 『近代柔道』 |
競泳 | 7 | 『スイミング・マガジン』 |
レスリング | 7 | ー |
卓球 | 3 | 『卓球王国』 |
体操 | 3 | ー |
陸上競技 | 2 | 『陸上競技』『陸上競技マガジン』 |
バドミントン | 2 | 『バドミントン・マガジン』 |
シンクロナイズドスイミング | 2 | ー |
テニス | 1 | 『テニス・クラシック』 『テニスマガジン』『スマッシュ』 |
カヌースラローム | 1 | ー |
ウェイトリフティング | 1 | ー |
今回、11の競技でメダルを獲得していますが、そのうち5競技は専門雑誌が市販されていませんでした。なんだか少し寂しい気がします。
こういった専門雑誌の併読本を眺めていくと教育関係の本が目立ちます。学校の先生が部活対応に購入しているということも多いのではないでしょうか。そう考えると、学校で部活として行われている競技かどうかが専門雑誌の存続の鍵になっているのかもしれません。
さて、オリンピック関連書の読者の併読本から注目作を紹介して行きたいと思います。
スポーツ関連のノンフィクションジャンルでは高校野球関連書が数も売上げも圧倒的です。その中で今夏注目されているのがこの『勝ち過ぎた監督』。球史に残る監督といわれている駒大苫小牧の香田監督は、甲子園でチームを連覇に導き、その後ひっそりと表舞台から姿を消していました。記録破りだった監督の栄光と挫折を丹念に描いたノンフィクション。
オリンピック選手、コーチなど様々な方たちがこれまで本を出版してきており、今後もメダリストが執筆した本の出版が続くでしょう。『卓球王国』の読者に注目、併読されていたのがこちら。卓球をやらない人でも面白く読めるメンタル論も多いので、これまで以上に読まれて欲しい注目作です。
今回、読者の併読本は小説・コミック(特にその競技の漫画)が多かったのですが、中でも読まれていたのがこちら。池井戸潤の最新作はランニングシューズ作りに挑む老舗企業を描いたお話です。ランナーをとりまく業界の様子がつぶさに描かれており、実際にスポーツをやっている方たちからの評価も高い1冊です。
東京オリンピックに関する問題提起の本もいくつか出版されていますが、リオ五輪後の熱狂の中ではその存在感は薄めです。そんな中で何人かの人に読まれていたのがこちらでした。エンブレム問題、国立競技場問題、露呈し続ける問題をどう考えていくべきかを問いかけた1冊です。
テニスファンの併読本はちょっと異色でした。『ラジオ英会話』や組織論について書かれたビジネス書など、他の競技本と比べると大人の読者が目立ちます。生涯スポーツとしての存在感が読者の動向からも見えてきました。
その中から、注目したのが上記の本。テニスジャーナルの元編集長がプロテニスプレイヤーの世界について書いた1冊です。
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出版業界では「オリンピックがはじまると本が売れなくなる」とよく言われています。確かに、記念号のようなグラビアは手に取られているものの、競技や選手について深堀りするようなところまで読者の動きは至っていません。
さらに今回驚いたのは専門雑誌の少なさでした。あれほどまでに多くのメダリストを送り出したレスリングにも、体操にも専門誌がないのです。協会の機関誌などを取り寄せて読むといった事になるのでしょうが、メダリストの活躍に興味を持った子供たちにとってはあまりに高いハードルです。
会場整備も、おもてなしも大事ですが、競技人口を増やし、選手を育てるという意味でもぜひ本・雑誌作りを活性化して、競技の情報に触れられる機会を増やしていって欲しいものです。