かつてよく「インタネット空間では多くの人々が発言の機会を得、メッセージを発信できる。言論の幅が広がるだろう」と聞いたものだ。時がたち、なるほど確かにスマホなどが行き渡ったこともあり、多くの人々が様々なメッセージを発するようになった。
が、発信される情報の量は、必ずしも豊かで健やかな言論空間を補償しない。見渡せば中傷、人格攻撃、炎上…。傍目八目、人の争いだと「そんなにムキにならなくても」と思うが、自分が何か言われればつい反射的に腹を立てたり。あちこちでぶつかり合う「確信VS確信」。「正義VS正義」。だがこの世の中にはあまりにも「正義と確信」が満ち溢れすぎてはいないか。
この本は、そんな日頃の疑問に答えてくれるのである。
どんな人の脳にも必ずある「認知バイアス」を、生活の場面に則した80問のクイズを通して解き明かす。
〈認知バイアスとは、思考や判断のクセのことです〉
〈人は自分のクセに無自覚であるという事実に無自覚です〉
〈最大の未知は自分自身なのです〉
広い知見に触れているつもりでいても実は自分の考えを補強してくれるものばかり見てしまう「確証バイアス」、自分は平均より上だと思いたがる「平均以上効果」、人の意見に釣られたのに、初めからそう思っていたと記憶が書き変わる「アドバイス効果」などなど、こんなにもたくさん人の認知を歪ませるものがあるのかと驚くだろう。と同時に、「そう言えば」と思い当たる出来事も多いはず。「ああ、いるいる!こんな人!」
だがそう思った瞬間に、読者は落とし穴に墜ちている。すべては他人事ではなく、自分自身なのである。自分自身のバイアスこそが大問題なのだ。読んでいると次第にそのことに気づかされて、読み終わるころにはちょっとコワくなってしまう。ご夫婦で、親子で、語り合いながら読んでみるのも一興、互いの未知の姿に触れられるかも知れない。
※産経新聞書評倶楽部から転載