光りあるところに影がある。まこと、栄光の陰に数知れぬ忍者の姿があった…(アニメ「サスケ」より)
最初は素手で殴り合っていた喧嘩が、やがて棒や剣のような武器を持ち、飛び道具を作りはじめ、すべての人を焼き殺すような兵器が作られるようになる。しかし、そんな「王道」の兵器の陰に、とっても残念な「超」兵器が開発されていたことを私たちは知らない。
それらは、今きけばバカバカしく奇天烈で、実用可能になるとは到底思えないものが多いのだが、時が経ち、科学が発達して新発見があり、素材が合成されることで実現可能なものも出てくる。人の想像力とは、果てないものだとつくづく感じてしまう。
太平洋戦争終戦間近に日本が開発した風船爆弾など、成功の裡に入るかもしれない。1万発弱が太平洋岸から放球され、ジェット気流に乗ってオレゴン州に届き、遠足中の子どもと引率の女性の命を奪ったという。
軍人のトップは科学者へ過大な期待をしていた。ヒトラーでさえ敗色間近になっても、出現すればたちまち勝利へ導く「超兵器」の開発を信じていたのだ。
では、どんなものがあったのか。本書では用途や思想などから18種の超兵器開発に触れている。いくつかを紹介しよう。
1959年1月、キューバ革命によってフィデル・カストロは新政権の首相となった。自国の国民だけでなく、アメリカでも彼のファンが多かった。それはなぜか。
彼はカッコよかったのだ。トレードマークの見事なヒゲはワイルドにみえて良く手入れされており、民衆にアピールするように心がけていたと言う。アメリカを訪れた後など、彼のような付け髭が大流行したのだ。CIAはそんな彼の人気を危惧した。人気を無くすにはどうしたらいいか……。
それは脱毛剤の開発だった。強力な脱毛剤、具体的には「タリウム塩」の何かであったらしいが、それを投与し彼の体毛を悉く抜いてしまおうとしたのだ。頭髪も陰毛も落ちるだろうが、とにかくターゲットはヒゲだ!
計画はこうだった。外遊中、ホテルに泊まっているカストロは身だしなみに気を遣っていた。靴も磨いてもらうため、ドアの外に置くのが日課だ。その靴の中にタリウム化合物を散布しておけば、皮膚経由でタリウムが体内に入り、やがてツルテカになって人気は急降下!
地味だ…。
だが、そんな周到な計画を立てたにも拘らず作戦は実行されなかった。それはカストロが外遊を止めてしまったから。この平和的な作戦がムダになったことで、結局「殺しちまうか」ということになり暗殺計画が繰り返されたという。
数々の動物兵器開発についても、かなり詳しく書かれている。お腹を空かしたイヌを用意し、戦車の下にはエサがあると覚えさせて、背中に爆弾を括り付けた「イヌ地雷」。戦艦の形を見たら嘴でつつくようにオペラント条件付けを施したハトによるミサイル発射装置。
日本との戦争でアメリカが考えたのは「爆弾コウモリ」。木造家屋の多い日本では火が一番の敵になる。家の中に入り込んで火を放つのにコウモリはうってつけだ。ナパーム弾カプセルを付けたコウモリを使った実験では大成功を収めている。実行されなかったのはすでに東京大空襲で全部焼けた後だったから、というのは笑えない。
相手を殺さなくても、やる気を失わせればいい。そのためには「愛」だ!という理由でアメリカでは媚薬の開発も盛んだったという。化学兵器でも毒ガスなどとは発想が全く違う。否致死性で戦友に同志愛以上の愛情を感じさせれば、相手は混乱するだろう。その間にわが軍が攻め入れば、という皮肉なラブ・アンド・ピース。その名もまんまな「ゲイ爆弾」は今や『ネイチャー』でも使われる公式な名前となっている。
だが現在、軍隊には女性が多く活用される時代になった。全米軍の15%に及ぶという。当時は軍に女性がいないから「ゲイ爆弾」と呼ばれたが、今これが炸裂したら、と思うと戦慄する。確かに戦争にはならないかもしれないが別の阿鼻叫喚が待っている。
他にも真面目な超能力兵器や地震、天候を操る兵器、殺人光線など、世界中の国で同じようなことを考えていたのだなと驚かされる。
著者からのメッセージを引用して筆を置く。
諸君、私は戦争が嫌いだ。諸君、私はこの地上で行われるありとあらゆる戦争行動が嫌いだ。私は平和を、糞のような平和を望んでいる。君たちは一体何を望んでいる?三千世界の鴉を殺すような平和を望むか?よろしい、ならば平和だ。
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超能力部隊についてはかなり真剣に訓練していたようだ。
ものすごく面白かったのに残念ながら絶版。で、映画にもなっている。