7月19日、梅雨が明け、夏がやってきました!同じ日の朝、出来たての『せいめいのれきし 改訂版』が製本所から会社へ届けられました。数日前から姿を隠していた太陽は、この黄色い絵本の誕生を祝うようにぎらぎらと出迎えてくれたのです。
『せいめいのれきし』という絵本をみなさんはご存じでしょうか。子どもの頃に好きだったという方、同じ作者の『ちいさいおうち』は読んだけれどこの絵本は知らなかったという方も多いかもしれません。
『せいめいのれきし』は、宇宙に地球が生まれてから、生命が誕生し、恐竜の時代、哺乳類の時代を迎え、今この瞬間まで連綿と続く生命のリレーを5幕のお芝居形式で壮大に物語るユニークな絵本です。1964年の刊行以来(原書は1962年刊)、半世紀にわたり世代を超えて愛されてきました(64刷・40万部)。
この絵本の魅力は、子どもたちに進化の歴史を教えてくれる名作科学絵本というだけではありません。物語の舞台には、三葉虫や恐竜といった生き物が次々に時代の主役として登場しますが、最後のページでは「さあ、このあとはあなたのお話です。主人公は、あなたです。」と作者から読者へ、そっとお話のバトンが手渡されます。今を生きる私たち人間も過去の生き物からずっとつながってきた存在であることに気づかせてくれる、長い時と生き物への愛情に満ちているのです。
作者のバートンさんはアメリカ自然史博物館に通い8年間情熱を傾けてこの絵本を描き上げました。詩情豊かなストーリーを彩るその細密で美しい絵や、石井桃子さんの優しく語りかけるような名訳には思わずじんと胸打たれます。
しかし刊行から半世紀が経ち、様々な分野の研究は日進月歩で進んだため、内容のアップデートについてはずっと編集部の課題でした。実際、いい絵本だけど内容が古いから開架から下げなくちゃ、と悩んだ図書館員さんもいらしたそう。それに、恐竜や生き物が好きな子どもたちの知識には大人も脱帽してしまうほど。これからも子どもたちに胸を張って差し出せる絵本にしたい!と、鼻息荒くアップデートを志したわけなのです。けれど、バートンさんも石井桃子さんもすでにご逝去されていますし、「不朽の名作」「深い思い入れを持ったたくさんの読者がいる本」「会社の看板商品のひとつ」……というこの大切な絵本の改訂は勇気のいる決断でした。
改訂を後押ししてくれた理由はもうひとつ。じつはアメリカでは、バートン生誕100年の2009年に、ハーバード大学の博士の監修で、地質時代区分や進化の歴史、気候変動などについての記述や生物の学名などが改訂されたupdated editionが刊行されていました(絵は変わらず、冥王星が削除された程度)。そこで、日本語版ではこのupdated editionに拠りつつ、国立科学博物館の真鍋真先生にあらためて全体の監修をお願いしました。また石井桃子さんの美しい日本語をできるだけ活かすため、著作権継承者である「東京子ども図書館」のみなさんにも目を通していただきました。
この絵本を心から愛し、「恐竜」「子ども」「絵本」に第一線でかかわるプロのみなさんの言葉のキャッチボールは圧倒的でした!真鍋真先生は超多忙な研究者でありながら、数多くの疑問にいつも丁寧に答えてくださいました。先生が語る絵本の魅力は、研究者ならではの独自の視点に満ちていて、何度も目から鱗が落ちました。その研究者魂からすればもっと説明したいところもあったはずですが、原著を尊重する想いで、改訂ポイントを見極められました。こうして生まれ変わった『せいめいのれきし』に、これからたくさんの子どもたち、大人の方に出会ってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。
最後にひとつ。今回の改訂で全ての絵の色が鮮やかに蘇り、生き物の気配がぐんと増しました!ぜひ絵をじっくり眺めてみてください。ページをめくるたびにバートンさんの粋な仕掛けに気づかされること間違いなし。私もいまだに日々「発見」し続けています!
2004年入社以来10年間、児童書や単行本の製作・デザインに携わる。2014年より児童書編集部所属。『せいめいのれきし』にはまり、庭に訪れる生き物をあまり怖がらずに、じっと観察できるようになった。とくにセミの赤ちゃん。