お弁当にまつわる親との思い出なら、誰しも少なからず持っているものだろう。昼休みに友達と見せ合いっこをして馬鹿にされたこと、持っていくのを忘れて学校に届けてもらったこと、喧嘩をした後にお弁当箱を渡しながら謝ってみたこと…。かくも、お弁当の持つコンテンツ力の高さは、様々なコミュニケーションを生み出す。
今どきの親子なら、LINEでやり取りをすることも多いかもしれない。しかし、リアルタイムではなく、あえてタイムラグを活用したコミュニケーションをしたらどうなるのか、そして子供のスタンプに対して親が弁当で返事をしたらどうなるのか?本書は強すぎる親心ゆえに繰り広げられた、3年に及ぶ母と娘の物語。
舞台は伊豆諸島の一つ、八丈島。この島に住むシングルマザーの母親と、丁度反抗期に差し掛かったばかりの高校生になる娘が登場人物だ。つれない態度を取り続ける娘に対して、ある日母親はキャラ弁作りという報復行為に乗り出す。
そして作った弁当を毎日ブログに晒し続けたところ、あれよあれよのうちにネット上で大反響。ついには書籍化になってTVなどでも取り上げられるほどのお祭り騒ぎであるという。
具材のファンタジスタがお届けする、お弁当の小宇宙。そこに込められた母親の思いを、とくとご覧あれ!
手間をかけて既成品風に仕上げる
まず目を引くのが、コンビニでも売っているような既成品をわざわざ別の具材で表現した一品の数々。インスタント食品を手間暇かけて、そして飲み物を食べ物で。あえて回り道をすることによって、素材から意味を解き放つ。
旬のネタ、季節感も盛り込んで
とは言ってもお弁当の悩ましさとは、毎日作り続けなければならないということである。良いアイディアを思いついても、何も思いつかなくても、その時間は必ずやってくる。そんな時に頼りになるのが、時事ネタ、季節ネタ。まさにネタは、鮮度が命なのである。
それでもつれない娘への不満を形に
それでも娘の反抗期ぶりは、一向におさまる気配がない。やがては、その不満をダイレクトに表現するようになっていく。中でも食欲を減退させる味付けは流石のひと言!
タイムラグで不意打ちを
仕返しとは常に不意を打つもの。ならばお弁当を作ってから開けるまでのタイムラグを活用するも一手。朝の不満を昼にリマインド、夜の番組録画のお願いを昼にティザー告知。この報復行為がボディーブローのように効いていく…ワケではなさそうだ。
時には意味もなく
いくら本人が悪ノリして楽しんでいると言っても、さすがに毎日作り続けるのは苦労も絶えないもの。作品として迷走気味なものもあるのは、ご愛嬌というところか。
娘とともに、弁当作りも卒業へ
そんな弁当作りの日々も、やがては終わりの時を告げる。娘の卒業へ向けてのラスト3日間は叱咤激励のカウントダウン。「すべてが思い通りになるな」「無駄と思うことも本気でやれ!」「夢を叶えろ!」。そして最終日には、まさかの表彰状が。
娘の卒業とともに、弁当作りが終わったことへの開放感、と同時に感じる寂しさと喪失感。それでも毎日作り続けた弁当を振り返れば一つ一つが実に雄弁で、親子二人で共有した青春の日々がじんわりと伝わってくる。
そして本書の最後では、終始そっけない態度を取り続けていた娘の意外なコメントが。母親の後ろ姿から発せられたメッセージは、しっかり受け止められていた模様である。
まさに感動のフィナーレ。と思ったら、その後もランチに形を変えて「仕返し」は続いている模様。この母親、やはり恐るべし…
<画像提供:三才ブックス>
本書にも頻出するモアイ像のマッシュポテト。おそらく使っている型はこれ