デザインには無限の可能性がある、と最近強く思うようになりました。想像力で課題を克服するというテーマで今回は3冊ご紹介します。
著名な芸術家やクリエイティブディレクターが、デザインや広告の世界にとどまらず、建築、舞台演出など幅広い分野で活躍されているのをお見かけするようになりました。今、デザインのスキルが高い方々の活躍の場が広がっています。優れたデザインとは、ただ美しかったりカッコ良かったりするだけでなく、使いやすかったり、耐久性に優れていたりと、対象の弱点をカバーし、解決策を導き出すものなのです。近年、そのアプローチは「デザインシンキング」と呼ばれ、注目されています。
アメリカ・シリコンバレーに本社を置くデザイン・コンサルティング会社IDEOは、「世界で最もイノベーティブな企業」にデザイン・コンサルティング企業として唯一選ばれた企業です。
同社を牽引してきた創業者で、スタンフォード大学dスクールの創設者でもあるデイヴィッド・ケリーと、その弟でIDEO共同経営者のトム・ケリーが、本書で最新の「デザイン思考」のノウハウを語ったのがこの本。
「忘れられがちな事実だが、幼稚園のころは誰もがクリエイティブだった。(略)何かやらかせば社会的に拒絶されるという恐怖は、歳を取るにつれて身に付けたものだ。だからこそ、数十年がたってからでも、創造力を一気に、しかも劇的に取り戻すことは可能なのだ。」
創造力に必要なのは、アイデアと自信だと著者は言います。そのためのトレーニング、アドバイス実例が満載の本書。創造力が子供を恐怖から救った感動的な一例をご紹介します。
MRIというトンネル型の検査装置がありますよね。ダグ・ディーツはその開発者でした。彼はある日、病院で自分の作ったMRIスキャナーに怯えて、泣いている女の子に遭遇します。怯えが激しい場合は、鎮静剤を使っているという事実に、彼はショックを受けました。人々の命を救うために自分の作った機械が、子供たちに恐怖を与えている…。
このMRIスキャナーは「デザイン界のアカデミー賞」といわれるインターナショナル・デザイン・エクセレンス賞に出品されるほど、大人の目から見れば洗練された機械であったのですが、幼い子どもの目から見れば、いやいや入らされる巨大で恐ろしい機械でしかなかったのです。
彼は幼い子どもを怯えさせないMRIの開発に役立つなら、どんな方法論でも受け入れようと決意し、スタンフォード大学のdスクールに通って、この本の中で説かれているデザイン思考を身に着ける為のトレーニングを受けました。
その結果産み出されたMRIがこれ。
タグはMRIを受けるという体験を冒険に作り変えました。装置や部屋全体に絵を描き、幼い患者を冒険に案内できるよう、MRIの操作担当者向けの台本も用意しました。スキャナーの狭い空間に怯えさせない効果を生み出すため、皆が一丸となって取り組む姿は感動的です。
MRI操作担当者は「海賊船に乗って海を旅するから、船の中でじっとしていないとダメだぞ」と子どもに伝え、船旅が終わると子どもは部屋の反対側にある海賊の宝箱か、ちょっとした財宝を手に入れられるというシナリオが出来上がりました。
その結果鎮静剤が必要な子供は1割にまで減り、タグはスキャンを受けたばかりの女の子が刃母親のスカートをひっぱりながら「ねえ、お母さん。明日もこれに乗れるの?」と聞いている場面に出会うことができました。
閉塞感がなく、静かなMRIを作ることは今すぐにはできません。技術や物量、予算、時間など、私たちの前には時に何かを成し遂げようとするときに立ちふさがる障害があります。それを想像力で解決することができるかもしれません。可能性を広げるために、この本で学んでみませんか??
素敵なお家は誰のもの??人よりも猫と犬が多く暮らす、ちょっと変わったお家の物語。
ペット共生住宅の専門家である著者のもとに 「猫15匹と犬5匹と一緒に住む家の、デザインをしてほしい」という依頼が舞い込んできました。
ジグザクのキャットウォーク、猫窓、猫道、爪研ぎ柱、トイレ。猫が大喜びの設備は、著者の素晴らしいデザインのおかげで、オブジェのように室内に調和しています。自分たちの為に作られた空間で、幸せそうにくつろぐかわいい猫ちゃんたちの写真が満載で、見ているだけで幸せな気持ちになりました。
物言わぬ猫の気持ちに徹底的に寄り添って空間をデザインするという難題に挑む、建築家の苦悩も時折文章から垣間見えますが、猫ちゃんのリラックスした様子を見て、きっと著者も大きな達成感を味わわれた事でしょう。共存共栄をデザインで実現した素敵な実例がおさめられたフォトエッセイ。猫好きさんも必見です!!
道具の手入れを作り手から学ぶ。そのために素材を知り、作り方を知り、作り手の人柄を知る…。
「お手入れ」というと、「きれいに保つこと」と思われるかもしれません。しかし、作り手からは「新品同様に戻したらせっかく使い込んだ味わいが台なし」という言葉をよく聞きました。使うことで、生まれる質感。使い勝手にプラスして、これを楽しむことこそ、道具の醍醐味」
この本で紹介されている道具は、どれも手入れにひと手間かかるものばかり。電子レンジに入れる事ができない漆器のお椀、強火にかけると割れてしまう土鍋、テフロンと違って焦げたり錆びたりしてしまうフライパン。
しかし上手に手入れし、時々直しながら使うと、新品にはない風合いが出て、料理の味にも深みが出てくることが、本書を読み進める上でわかってきます。この本で紹介されている、金継ぎという技術。欠けたり割れたりした陶磁器を漆で継ぎ、金や銀の粉を蒔き、上化粧して直すことなのですが、私はこの技術が大好きです。
壊れたものを直すだけでなく、金や銀を蒔く事で模様にしてしまう。美しいものを大切にすること。壊れたものも美しくなおすこと。物の後ろにある物語を感じながら、使う過程で自らも物に意味を与えていく。美しいデザインが忙しい日々に彩りを与えてくれる。
壊れないもの、汚れないもの、劣化しないものを科学技術に頼って作るより、昔ながらの素材で美しいものを作り大切にするほうが、心が豊かになる気がします。読んだ後、身の回りのあれこれを、たまにはお手入れしてみようかな~とやる気が出てくる1冊です。
【大垣書店烏丸三条店】
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