HONZをご覧の皆様こんにちは。GWいかがお過ごしでしたでしょうか?盆暮れ正月、GWやらクリスマスなどなど、人が休んでいるときこそ稼ぎ時で休めないのが接客業の寂しさであり……。ご他聞に漏れずわたくしも期間中のお休みは1日でした……。まとまった休みも欲しいけれども、それ以上に今私がイチバン欲しいのは……。センスです!!センスがいい人って言われたい!!そんな思いで手にとった1冊がこちら。
著者の水野さんは日本を代表するクリエイティブディレクター。「くまモン」のキャラクターデザイン、NTTドコモクレジットサービス「iD」のネーミング、広告、ブランディングなどのお仕事が代表的かと思います。
美しいだけでなく「本当に売れるデザイン」に重点を置き、ブランドづくりの根本からロゴ、商品企画、パッケージ、インテリアデザイン、コンサルティングまで、トータルにディレクションを行う、まさにセンスが服を着て歩いているようなお方です。そんな水野さんが考える“センス”とは?
「センスとは知識の集積である。これが僕の考えです。」
「知識というのは紙のようなもので、センスとは絵のようなものです。」
紙が大きければ大きいほど、そこに描かれる絵は自由でおおらかなものになる可能性が高くなる。センスがいい文章を書くには、言葉をたくさん知っていたほうが圧倒的に有利であり、美しいもの、クオリティの高いものを知らないと、目標設定が曖昧になってしまい自分の作品をその域まで高める、もしくは超えることが難しくなります。
「知識をふやすコツ」として水野さんがあげる3つのことは以下のとおり。
①それぞれの分野のロングセラー、王道を知ること
本書で定義づけているセンスのよさとは「数値化できない事象のよし悪しを判断し最適化する能力」王道のものは必ず、その最適化のプロセスを経た上でいまに存在しています。
王道を基準に、もっと高品質なもの、もっと手軽なもの、もっと機能に特化したもの、と知識の幅を広げて生きやすくなるからです。
②今、流行しているものを知る
③「共通項」や「一定のルール」がないかを考えてみる
また知識を吸収し自分のものとしていくには、感受性と好奇心が必要だともおっしゃっています。日常生活にわくわくすること。これがセンスを磨く近道なのかなと思いました。すぐにでも実践できる「似合う服の探し方」の所もとても参考になりましたので、バーゲンの前にご一読をおすすめします。水野さんが4年前に書かれた文章を文庫化した「アイデアの接着剤」もおしゃれで古びない、しかも面白い1冊です。
新しいものを作り出す場合に、ゼロベースで考えるのではなく、既存のものをくっつけてしまってはどうか?という提案がなされています。古いものを学ぶことで新しいものを生み出せる…。水野さんのぶれないデザイン哲学を学ぶのにもってこいの1冊です。是非バッグの中に忍ばせて、街へ繰り出しましょう。
さて、センスを磨く為に知識を吸収しよう!と思ったら、あなたはどこに出掛けますか??私は美術館に足を運ぶことが多いのですが、見に行く展示は絢爛豪華な絵画や、荘厳な仏教美術が多いです。水野さんの言う、今の今まで大切に残されてきた正に王道といえる美術品たち。
対して、比較的近年生み出されてきた「現代アート」は、ちょっと難解でわかりにくく感じることが多く敬遠しがちでした。もっと幅広くアートを楽しみたいと思って手に取ったのがこの1冊。
現代アートは、絶対的な評価基準の定まっておらず正解の無い世界。だからこそ、多様な視点をもちアートに接することが必要になります。アートの世界に足を踏み入れようとしている人向けに書かれていますが、自分がこの先何を仕事にしてどう生きていくか悩む人にも、気づきがある本だと思います。特に印象的だったのは会田誠さんの言葉。
「どこにも入らない、無理に入れても落ち着かないような種類のものは永久に出てくるでしょう。そういった表現の受け皿としてアートは利用できたりする。事実、世界的にはそうなっていて、アートがただ単に偉くて価値があって立派で、というだけのものではなく、居場所がないものをなるべく引き受ける大きな器として機能している。」
心を打つ作品は人の数だけあってもいいわけで、人を取り巻く環境がめまぐるしく変わる中、アートも変化を遂げ、これまでのものさしでは良し悪しをはかることはできなくなっています。現代アートは難解なのではなく、多様なのだと本書を読んで強く感じました。
「アートをどうやって自分のものにするか」「アートとどう接しながら生きていくか」について論じながら、現代アート特有の「答えのないおもしろさ」のようなものに触れることができる1冊です。
センスのいい人とは優しい人である…。そんなことをこの本を読んで思いました。
著者の中村好文さんは著名な建築家でいらっしゃいます。この本は中村さんの日常をきりとったエッセイ集。しゃれた写真やスケッチがまず1ページ掲載され、その後にその画像にまつわる文章が見開き2ページで書かれているのですが、こんなにも短い文章で端的に風景を映し出し、そこにいる人の笑顔や優しい暮らしが透けて見える本があるなんて!!
プレゼントしたい本をテーマに作られたという本書は、正方形で小ぶりのしっかりした作り。カバーには、エッセイで出てくる中村さんが設計したレストランの為に作成したランチョンマット」の紙と柄が使われています。
建築家として施主の暮らしに心を配る優しさと、人が暮らしに抱く理想に沿いたいという熱意と、茶目っ気とが垣間見えるエピソードが満載で、中村さんにいつか家を建てて欲しいと夢見るようになりました。
そんな中村さんの建てた家の作品集があるのです!!
ある日施主から言われた一言に中村さんは心を動かされます。
「私がよく知っていて、今も「いいなぁ」と思っている建物は、通っていた小学校の木造校舎です。校庭の真ん中に栴檀の大木のあるかわいい学校でした」
「正確にはなんという言葉か知らないんですが、スウェーデン語で日常よく使う形容詞があるそうです。それはひとことで「普通でちょうどいい」という意味の肯定的なホメ言葉なんだそうです。日本語の「普通」には否定的なニュアンスもありますが、そうではなくて「普通」が、肯定的な言葉だというのがいいですね。私が欲しいのは、たぶんそんな家だと思うんです」
私が無意識のうちに目指していたものは、人々が目をみはり、誰もが話題にせずにはいられない「特別なもの」ではなく、気張りもしないし、気取りもしない。背伸びもしないし、萎縮もしない。無理もしないし、無駄もしない。それでいてまっすぐに背筋の通った「普通のもの」でした。そして、用を満たすという観点や、美しさという観点からも、過不足なくほどよくバランスの取れた「ちょうどいいもの」でした。
今はセンスを身につけるべくちょっと背伸びをしていても、いつかは中村さんのように自分にとっての普通がセンスのいいものとなるよう、見聞を広めようと思うのでした。
【大垣書店烏丸三条店】
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