人間はどこから来て、どこへ行くのか。間違いなく、これが、人間の永遠の問いの1つであろう。「僕たちの体は、星のかけらから出来ている」、そう教わった時の腹落ち感は半端なものではなかった。だからこそ、僕たちは宇宙論が大好きなのだろう。誰しも僕たちの体を形作っている物質がどこから来たのか、その始源の物語を突き詰めて聴いてみたいのだ。本書は碩学の手による理代宇宙論の優れた格好の案内書である。
なぜ「宇宙論と神」というタイトルを付けたのか。その答えは第1章で明かされる。「神と宇宙は相性がよい」からだ。「どちらも遠く離れていて直接捉えることができず、想像する中で肉薄するしかない点で共通しているからだ」。なるほど。著者は時系列で人間の宇宙観の変遷を辿っていく。世界創成神話(第2章)、中国・日本・インドの宇宙観(第3章)、古代ギリシャの宇宙観(第4章、ここで早くも天動説と地動説が現われる)、アラビアの宇宙観(第5章)、ルネサンス(第6章)、コペルニクスからケプラーへ(第7章)、ニュートンの万有引力の発見へ(第8章)と知の探求が続いていく。
ガリレオによって望遠鏡の時代が始まり、人々の宇宙がどんどん拡大する。ハーシェルは天の川の観察から「島宇宙」論を提示した(第9章)。1920年には、銀河系が全宇宙の全てなのか、島宇宙の1つに過ぎないのか、という大論争(グレート・ディベート)が行われた(第10章)。その後、ハッブルが宇宙膨張を発見する。宇宙の膨張はアインシュタインの相対性理論ともよく符合した(第11章)。次いで、ホイルの定常宇宙vsガモフのビッグバン宇宙(第12章)、そして、インフレーション宇宙が登場して現在に至っているのである(第13章)。
現在、宇宙の姿は次のように理解されている。約138億年前、量子のゆらぎによって宇宙が誕生し、インフレーションが起こって(この過程で無数の宇宙が生まれてくる可能性がある)、その後膨張がはじまり、やがて元素が合成されて星が生まれ、そして星のかけらから僕たちが生まれたのである。宇宙は僕たちが知っている物質(星やガス。バリオンと呼ぶ)が約4%、よくわからない物質(ダークマター)が24%、同じくよくわからないエネルギー(ダークエネルギー)72%から構成されている。著者は「これまで宇宙論に関する本をいくつか書いてきたが(中略)おそらく本書が最後になるのではないかと考えている。それだけに、私自身愛着がこもった1冊になったと自認している」と述べる。著者のこの気持ちが、本書をこれだけ分かりやすい実に明晰な1冊に仕立て上げたのであろう。宇宙論の現在の地平を手短に学ぶためのベストの1冊だと考える。
出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら。
*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。
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