『システム×デザイン思考で世界を変える』by 出口 治明

2014年3月29日 印刷向け表示
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日本一小さな大学院、慶應SDM(システムデザイン・マネジメント研究科)のPR本である。しかし、PR本でありながら、とても面白いし、またストンと腹落ちするのだ。これから社会に巣立とうとしている若い皆さんはもちろん、社会人にも本書の一読をお薦めしたい。この本には、明日の仕事にすぐにでも役立つ考えるヒントがたくさん散りばめられているのだから。

システムデザインとは何か。それはシステム思考とデザイン思考の融合であるという。システム思考とは物事をシステム(要素間の関係性)としてとらえることで、要するに「木を見て森も見る」ということである。デザイン思考とは、ここでは「観察(オブザベーション)、発見(アイディエーション)、試作(プロトタイピング)を何度も繰り返しながらチームで協創する活動」と定義されている。論理を重視するシステム思考と、感性も動員するデザイン思考の両方を融合することでさまざまな課題が解決されるのではないか、SDMはそう考えているのである。イノベーションの3つの条件、「見たことも聞いたこともない」「実現が可能なこと」「物議を醸すこと」も面白い。特に物議を醸すこと。SDMでは「多数決に頼らず、賛否両論になりやすかったアイディアをとことん生かしていくことを強く推奨」しているそうだ。

本書は、「Part1イノベーションとは何か?」「Part2システム×デザイン思考の技法と活用事例」「Part3『武器』としてのシステム×デザイン思考活用術」の3部から成っているが、Part2では、日々のビジネスにすぐに使える16の技法がとても分かりやすく図解入りで説明、整理されている。この16の技法を知っているだけでも相当仕事には役立つだろう。加えて、実際にSDMが企業・団体のプロポーザルに応じたシステムデザインの活用事例が紹介されているので説得力が増している。即ち決して「畳の上の水練」ではないということが示されているのだ。

また、本書は、忙しい日常の中で、ついつい忘れがちになる大切な原点を、いくつも思い出させてくれる。例えば、多様性については、「均一なメンバーの方が平均点が高い。ただし、多様なメンバーは飛び抜けて優れたアイディアを生みだす」。システム×デザイン思考を阻む4つの壁、「正解を一発で出す」「失敗=悪い」「『まじめ』や『客観性』が正しい」「範囲・枠にこだわる」も面白い(かつ、正しいと思う)。「まじめ」より「楽しさ」や「ワクワクすること」こそが大切だ、と僕自身もずっと言い続けてきたので。そもそも、本来的に「問題解決や新規事業は楽しい!」ものなのだ。

読み終えて、本書が面白いのは、原点に大きな志があるからだ、と感じた。「貧困問題、環境問題、災害や安全保障の問題、教育格差の問題、情報格差の問題、高齢化社会のあり方など、日本や世界の本質的な問題に対処し、平和で幸せな世界の実現に寄与したい。システムとして世界の問題を俯瞰し、イノベーティブに全体問題を解決したい。みんなで力を合わせ、ハチドリのように歩んでいきたい」と。ハチドリとは、南米の先住民に伝わる、山火事の際にハチドリが口に水をくわえて何度も運び火を消そうとした「ハチドリのひとしずく」という物語。SDMには、福沢諭吉の志(例えば、「自我作古」我より古を作る)が間違いなく受け継がれているようだ。
 

出口 治明

ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

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