『踊る! ブラジル -私たちの知らなかった本当の姿-』は、2001年以来ブラジル全土を取材し続けてきて、ブラジルで写真集も発表した実績のある、ニューヨーク在住のフォト・ジャーナリスト田中克佳氏によって解説された、ブラジルの真の姿を紹介した本です。
……と書くとなにやら堅苦しい感じですが、じつは編集担当者である私とこの田中克佳とは、高校3年間同じクラスだった悪友でして。“橫浜市”とは名ばかりの海の見えない公立高校で、くっだらないことばかりやってた仲です。その後、お互いに一応はまっとうな大人へと成長した次第ですが、約20年前に田中のヤツがニューヨークに渡って以来、たまの帰国のたびにメシ喰いながら近況を報告しあうという関係が続いてきました。
本書をつくるきっかけは、2012年初頭のことでした。その前年に彼は、ブラジル本土で〈BRAZIL -The Poetry of Diversity〉という写真集(約30cm四方の大判です)を発表していて、その翻訳版を日本で出せないものかと、出版社およびスポンサーを探しに1週間ほど帰国していました。それでいつものようにメシ喰いながら旧交を温めたのですが、そのとき、くだんの写真集の内容にも関わるブラジルについての話をいろいろ聞いたのですが、それがもう私がそれまでイメージしてきた「ブラジル」像とはまったく異なっていて、驚いたのなんのって……!
私のふだんの仕事は、小中学生向けの学習ビジュアル百科をつくることなのですが、そうしたわけで日頃から世界のさまざまな国についての情報~人口・面積に主幹産業から文化や世界遺産まで~について調べる機会が多いです。
なので当然、ブラジルに関しても「サッカーがさかん」「コーヒー豆が有名」「リオのカーニバルが有名」あたりの小学生でも知っている常識から、「首都ブラジリアは内陸部に造られた人工都市で20世紀の建築物初の世界遺産」「ブラジルに渡った日系移民の子孫の人口は100周年を迎えた年に150万人を超えた」「鉄鋼産出量は世界一で、他の地下資源も豊富」「カポエイラは奴隷たちがダンスのふりをして鍛えた武道」「じつは美人が多くてスーパーモデルを多数輩出」etc.といった記事づくりに使えそうなネタまでさまざまな知識を“よく知っている”つもりだったのですが……
「それじゃなぜ、なにもなかった場所にわざわざ首都ブラジリアを築いたんだと思う?」と“悪友”の田中に訊かれたあたりから、私の“知識”がいかに上っ面に過ぎなかったか思い知らされることになるのです。さらに続けて……
「国民的音楽サンバもカーニバルも、じつはわずか数十年前までは卑しい奴隷文化として蔑まれてきた……それなのに現在これだけ盛り上がっているのはなぜだと思う?」
「農業もさかんで地下資源も豊富……それなのに人々が貧しいのはなぜだと思う?」
「日本では日系移民は有名だけど、他の国からの移民はどう暮らしてきたと思う?」
「美男美女が多いのにも、それ相応の理由がちゃんとあるんだよね」
……などなど、私がこれまで気づかなかった「なぜブラジルはそうなのか?」といった視点からの、なんとも興味深い話の連続だったのです。それで私は言いました。
「あのさ……翻訳版の写真集はともかく、そのネタを本にしたらオモシロイんじゃねェ?」
そういう経緯で、この『踊る! ブラジル』は出来上がりました。なので、FIFAワールドカップやリオ五輪の開催で注目必至のブラジルブームに当てこんで付け焼き刃でチャッチャカつくったようなものとは徹頭徹尾ちがう、取材に時間をかけた本であるということを、著者に代わって“悪友”の私が高らかに宣言いたします!
お読みいただければきっと実感できますが、私たち日本人が“地球の反対側の国”についていかに曖昧なイメージしか持っていなかったのか…驚くことばかりです。
私個人としては、ニューヨークに移り住んで20年以上経つ“悪友”田中が言ってた、こんな言葉が非常に印象的でした。
「同じ多人種国家同士でも、アメリカは〈人種のサラダボウル〉って喩えられるのに対して、ブラジルはむしろ〈人種のミックスジュース〉なんだよね」
……どういう意味でしょうか? あ、読んでいただければわかります! 私は非常に考えさせられました。ぜひ御一読のほど!
……なお、「もしかしたら文字ばかり多くて説明クサイんじゃないのか?」と訝しがれた方がいたら、ご安心ください。フォト・ジャーナリストならではの豊富な写真優先の本です。ともかくぜひ御一読のほど!
出版業界にいがちなW大学を浪人&留年の末に卒業後、1990年に小学館入社。現在メインは学習ビジュアル百科〈キッズペディア〉シリーズの編集長ですが、コソコソ他ジャンルの本も企んでいます。