東日本大震災の津波により、すべてが流されてしまった宮城県山本町。そこではいま、最先端の技術を用いたイチゴ農場が運営されている。iPadやMac Book Airで水や温度の管理をし、働く人はセグウェイで移動し収穫をしている。そんな最新鋭のIT技術と、ベテランのイチゴ農家の知恵が融合してできたイチゴは、伊勢丹新宿店においてなんと1粒1000円!で売られているという。その名をミガキイチゴという。
著者は震災のとき、東京でIT企業の経営をしていた。東京で震災にあい、震災の3日後には地元である宮城県山元町を訪れている。そこで人生最大の絶望に出会う。町の見慣れた景色が全て「無」となっていたのだ。町の主要産業であるイチゴ農家の95%が壊滅し、友人や知り合いも多く亡くなった。みえるのは静かな海と瓦礫だけ。そこで著者は
「人生はいつ終わるか、本当にわからない。」
ということを思い知らされたという。「人生は一度きりだから後悔のないように」という言葉はよく耳にする。聞いたときはそうだなと思うけれども、惰性で時間を過ごしてしまう人は多いだろう。私もそうである。しかし著者は違った。
「人は生まれたからには、その能力を100%使う『義務』がある」
という祖父の言葉を胸に、いま自分ができることを考えた。そこで経営手法を用いて街の復興を目指すことになる。復興とはいっても、元々衰退していた町を震災前の状態に戻すだけでは意味がない。そこで町の名産品であったイチゴに目をつけ、日本一、いや世界一のいちごをつくることを目指す。
そこからミガキイチゴができるまでの過程には様々な困難があった。まったくイチゴを作ったことのない状態から、どうやってイチゴを作っていったのか?またベテラン農家の技術と経験をいかにしてIT技術と融合させたのか?またその過程で起きた摩擦。どれもよみごたたっぷりである。だがそれ以上にその過程における著者の言葉がとにかく心に響くのだ。以下に一部引用してみよう。
“こちらにビジョンと熱意があれば、応えてくれない人などいないだろう。”
“紙や言葉だけでは人の心は動かせない。体で、汗で、必要であれば血で示すのだ。”
というような人を動かす方法に関する言葉や、
“うまくいっているときに差はつかない。勝負を決めるのは、困難の中に何かを見出し、実際に行動するかどうかである。”
“いつ人生が終わるかわからない中で、動かないことのほうが、よほど大きいリスクなのだ。”
“「今だ」という最高の波に乗れるか乗れないか、ここが勝負の分かれ目なのだ。”
といった自己啓発的な要素の言葉。どれもが心に響いて、読んでいると胸が熱くなってくる。
一度しかない人生なのだから、めいっぱい生きなければいけない!という著者の熱い思いが伝わってくる。そう言われても、つい惰性で過ごしてしまうのが人間である。それを聞いて動くことができるのか?それが人生を豊かなものにするかどうかの分かれ道なのである。また、人はどんなに絶望の中にいても前進することができる。そのことをこの本は教えてくれる。むしろそこで前進できるかどうかが鍵なのだ。絶望の中には必ず希望が潜んでいる。だから勇気を持って一歩を踏みだそう。そこにはきっとチャンスがあるのだから。