『男性論 ECCE HOMO』by 出口 治明

2014年3月12日 印刷向け表示
男性論 ECCE HOMO (文春新書 934)

作者:ヤマザキ マリ
出版社:文藝春秋
発売日:2013-12-18
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人間が一番分からないのは、自分自身である。そして、男性が永遠に分からないのは、女性である。逆もまた真である。僕は、本の中では、「ハドリアヌス帝の回想」を偏愛しているが、ハドリアヌスが大好きだと広言している「テルマエ・ロマエ」の著者、ヤマザキマリさんが、男性論を書いたと聞けば、これもまた読むしか他にないではないか。

全く意外な本だった。確かに、男性論の体裁はとっている。しかし、書かれている内容は、「人生いかに生くべきか」という生き方の(あるいはサバイバルの)、しかも「極上の」処方箋なのだ。加えて、著者が考える人間が生きやすい理想の社会像も同時に提示されている。古代ローマというモデルを借りて。いわく、「寛容性」と「ダイナミズム」と「増長性(あるいは「ワキワキ・メキメキの状態」。とても面白い表現だ)」。

著者は、「いまの日本にもルネサンスを――。」と叫ぶが、その意味は、「文化や技術が、あらゆる場所で芽吹いてくるダイナミズムを感じ、ひととひとが触発し合うことで新しいものが創造される現場に身をおくことこそが、人間にとっての豊かさとおもしろさの実感、つまり『生きる喜び』につながるのではないか」、と。ひとつ、首相を始めとし、全閣僚に本書を熟読してもらいたいものだ。これほど、わが国の成長戦略の「指南書」としてふさわしい書物が他にあるだろうか。

本書は、まず自己紹介から始まる。なぜヤマザキマリは結婚したか、「この人がそばにいたらおもしろいなと思えたから」。まさに至言である。次いで、理想の男性論。古代ローマのハドリアヌスやプリニウスから、ルネサンスを起こしたフェデリーコ2世やラファエロ、現代の変人であるスティーブ・ジョブスや阿部公房、花森安治へと、その系譜は続いていく。確かに、みんないい男たちばかりだ。そして、それに対峙する成熟したいい女のお手本として、須賀敦子を持ってくるあたりが何とも心にくい。

結びは、「ボーダーを超える!」と題して、「置かれた場所で咲かない」と著者は言い切る。「居心地が悪ければ、その外に出ればいい」と。これまた至言であろう。最近では、新卒で入社した新社会人の3割が3年以内に退職しているという。これを問題視する向きも一部にはあるが、僕は基本的にはいい傾向だと考えている。労働の流動化、即ち、次の成長分野へ、人が順次移っていかなければ、社会は停滞するしかないからだ。つまり、置かれた場所で咲いている場合では、もはやないのだ。

本書の魅力は、江戸っ子の威勢のいい啖呵のように、歯切れのいい言葉が、ポンポンと飛び出すところにある。例えば次のように。「絶頂をきわめても、どん底を経験しても、『まだまだ理想を追い求めていくぞ』というときの心地のよさ、エクスタシーを感じられるかどうか」「人間を向上させるのは、切磋琢磨しあえる関係を持つに限る」「すべては、人生を楽しむ『いたずら心』が根底にある」「『空気を読める』ひととは、自分が今暫定的にいるにすぎない場所の価値観やルールに高度に順応できるというだけのことでしょう?」「背負った苦労は、ぜんぶ、笑いに昇華させなければ納得いかない」「自己憐憫に浸る時間がもったいない」「様々な行動によって得た知識や経験に基づいた、想像力のよすがとなる自分オリジナルの辞書を作っておけば、それが思いがけない方向から自分を助け、新たな展開を生む軸を生みだしてくれるはず」

本書を読んだ感想は、ヤマザキマリさんは何と魅力ある女性であることよ、という一言に尽きるだろう。この腹の底から元気の出る本を、これから社会に出て行こうとする若い世代に、ぜひとも読んでもらいたいものだ。日本を元気にして、ルネサンスを起こすために。 

出口 治明

ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。

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