暮れも押し詰まってきました。皆さま、いかがお過ごしですか。政党再編がらみのニュースで読まれる「江田氏ら」というフレーズが、どうしても「江頭(えがしら)」に聴こえてしまい、何度も顔をあげてしまう私です。好きなんですよね、江頭2:50さんの芸風。でも残念ながら中学2年生ぐらいから、自分ではそういうことを出来なくなってしまいました。何度か挑戦しましたが、やっぱり恥ずかしくってさ。
さて今回は、新刊・既刊を問わず、自分にとって今年を象徴する「ベスト5点」をご紹介させていただきます。
「私はおととい生まれたばかりである。まだ目は見えない。けれども音はよく聞こえる」
これが本書の書き出しです。つまり、赤ちゃん視点で書かれたフィクションなのです。著者の松田道雄氏は、『育児の百科』などの定番の子育ての本を多数書かれた有名な小児科医。専門的知識を伝えるために、作家として筆をとったとでもいいましょうか。子育てに悩む人たちに、なんとしても伝えたいという強い想いが、私はとても好きです。
「きみはそんな男ではない。夜明けのこんな時間に、こんな場所にいるような男ではない」(『ブライト・ライツ・ビッグ・シティ』冒頭より)これは80年代のサリンジャー、ジェイマキナニーの小説の冒頭です。
文学史を変えたと言われるこの書き出しを超える衝撃を、今回私は受けました。しかも、『私は赤ちゃん』が書かれたのは、その随分前のことなのです。本書のオビには「初めての子育てに不安いっぱいの時に、勇気づけられました」(80代女性)という言葉があります。80代ですよ!その本を、現在子育て中の私が読んで感動している。この事実が凄いなぁと思います。
今年、我が家に長男が誕生しました。彼が、何を感じ泣いているのか、なぜ笑っているのか。赤ちゃんになった気持ちで想像するだけで、とても充実した時間を過ごせます。松田先生に、心からお礼を言いたいです。
本書は、4月から始めた、ほんをうえるプロジェクトの第一弾商品です。中身を吟味し「こう売れば良さが伝わる」とイメージし、売り方も含めて、書店様にご提案した最初の本です。著者、装丁、出版社などの外側を見て仕入れ数を決めるのではなく、どちらかというと「惚れて仕入れて、惚れて売る」型の仕掛け販売です。
私は、これを「旧式」とは思っておらず、商売の「基本」だと思っています。データは、あくまでもこれを補完するもの。データは使えるところまで使った上で、この基本に立ち返るのが一番良いと思っています。常にそこには、1点1点の中身を伴った商品と、それを読む1人1人のお客様がいらっしゃることを忘れてはならないと思います。プロジェクトでの継続的な取り組みを通して、学ばせていただきました。
本書は、新潟の子育て中のお母さんが書きためた詩集です。出社前、何の気なしに読み始めたら涙があふれてきたので、一旦、ウチに持ち帰って読むことにしました。そして号泣。スーパーで子どもを叱りつけた後の辛い気持ちを綴ったものなど、とても身近で、グイグイと胸に迫ってくるものばかりでした。
「ほんをうえる」という名称にこめた思いは、自分達が選んだ本を“植物を育てるように、水をやり手間をかけ、育てていく”というものです。書店様にその想いが伝わり、いまさらに大きな、広がりを見せようとしています。ご恩をいただいた皆さま、ありがとうございます。引続き、頑張りたいと思います。
本書は、本屋大賞にノミネートされた際に読ませていただいたのですが、どんどん引き込まれ、休みの日に家族に「ちょっとゴメン」をして、じっくりと読ませていただいた記憶があります。
ちょうどその頃、地下鉄の駅で、レトロ感たっぷりの“線路横断禁止”看板を見て、
「昭和の時代って、凄い人がいっぱいいたんだろーな」と想像しました。いまの時代、うす暗い地下鉄の駅でホームから飛び降り、境界を乗り越えて向かいのホームに行こうと思う人がいるでしょうか?昔は、きっと大勢いたんでしょうね。
この後に読んだ『相場師一代』という昭和を生きた大物相場師の自伝を、ほんをうえるプロジェクトで取上げました。こういった昭和の凄い人の生き方を知り、ひとまず今のマインドセットをはずし、「混沌の中から、自分自身になること」を目指すのも悪くないなと思いました。
「現代人はストレスで毛細血管を縮ませ、姿勢の悪さで血流を阻害している」
健康本は数多ありますが、本書はブームに左右されない幻冬舎文庫のロングセラー商品です。この本を読んで、身につけたことがたくさんありました。
呼吸法というと、「何秒吸って何秒吐いて」など面倒なものが多いですが、本書はとてもシンプルです。人間は落ち着いているのが当たり前の状態で、いまその状態にないのなら、そこから脱出する第一歩は、心を静める場所(臍下の一点)に意識をもっていき、リラックスした状態をつくること。そんな実践法が書かれています。
「自然な呼吸とはどのような呼吸なのかを知ることが重要だ」というような、抽象的な部分もありますので、そういうのが苦手な方はやめたほうが良いかもしれません。でも逆に、いろいろ試されてきた方はその辺の思考が鍛えられているので、この本の説明を読めば、簡単に理解できちゃうかもしれないですね。
5点のうちの最後に同じ時期に読んだ本を、2点まとめてご紹介させてください。
今年も、今後の生き方を示した本がたくさん発売になり、売れました。私は、そのなかで理論だけでなく複数の実例があり、また実を結んでいる主体的な取り組みが紹介されているという点で、『里山資本主義』が群を抜いて説得力があったと感じています。
先日、テレビを観ていたら、アメリカのタクシー業界のストライキを紹介していました。それは、スマホでタクシーとお客さんの居場所を把握し、より便利にかつ安くサービスを提供する会社が現れ、従来型のタクシーの運転手が稼げなくなっていることに起因していました。日本にも登場したようで、今後きっと騒ぎになるでしょう。
これは、従来、普通だと思っていた仕組みに多くのムダがあったということを示しています。前回ご紹介した『劣化国家』という本の中で「成熟した社会においては所得は減っていく」ということが書かれていましたが、これから、このようなムダが減って、所得が減る局面は増えてくるのかもしれません。
でも、だからといって、不幸になるかというとそうではないと思います。簡単に言えば、ホームパーティに、高額な有名店のケーキを持ち寄るのではなく、手作りのケーキを持っていくイメージです。あるいは、近所のおばちゃんと余ったネギとキャベツを交換するイメージです。それって、幸せの香りがしませんか?
『詩羽のいる街』は、そんな小説です。お金を持たず、交換で生き、人々の役に立っている不思議な女の子が主人公。GDPを指標にすれば、どんどん右肩下がりになりますよね。、『詩羽のいる街』や『里山資本主義』の世の中では、別の指標が必要になると思います。仕事も、売上前年比で評価できない世の中になるのかもしれません。どれだけ多くの人を幸せにできたかとか、そんな指標でしょうか。いまデータをいじくって有頂天になっている世代よりさらに若い世代の方は、きっと理解できるでしょう。ぜひ、この正月に、2点まとめて読んでいただけないでしょうか。少しだけ、懇願したいと想います。
吉村博光
トーハン勤務
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。
ほんをうえるプロジェクト https://www.facebook.com/honwoueru
TEL:03-3266-9582