わくわくサイエンス本だ。
2012年11月13日早朝、インド沖合のスリランカに突如として「赤い雨」が降り注いだ。砂漠の微粒子を含む「黄色い雨」や火山灰・石炭を含む「黒い雨」はよく確認されているが、「赤い雨」というのは神話などで紹介されているものの事例が少なく、本格的な科学的研究はあまり進んでいない未知の現象である。本書は久しぶりに確認された謎の「赤い雨」の正体に迫る研究者の話である。
スリランカに赤い雨が降った11年前の2001年7月下旬、インド南西部ケララ州でも同様に赤い雨が降ったことが報道されていた。いくつかの地点では赤色の濃度が高く、血が降り注いだようであったという。スリランカで赤い雨が降った際も、辺りが赤茶色に染まるほど、赤い雨の濃度は濃かったそうだ。そしてインドのケースでは、その赤い雨が降る前に、大気中で大きな爆発音が聞こえたという奇妙な現象も報告されている。
ここ数年、各国の科学者たちがこの未知なる「赤い雨」の分析を急いでいる最中だ。今現在も分析は進行中で完了してないそうであるが、すでに驚くべき分析結果が一部で出始めているという。赤い雨には、地球上のものとは思えない細胞状物質が大量に含まれているというのだ。採取した粒子の細胞壁にはウランが濃集されており、加えて細胞内にはリンが少なく代わりにヒ素があるという。もしこれが本当だとすると、地球上に確認されていない未知の細胞の発見となり、科学的に大発見となる。2010年12月にNASAが発表したヒ素を用いて生命活動を維持することが可能な細菌「GFAJ-1」に類似している可能性も示唆されている。
この研究を海外チームと共同で実施しているのは、東京大学名誉教授で現在は千葉工業大学惑星探査研究センター所長を務める著者。著者がどういう経緯で「赤い雨」を研究することになったのか、どのように研究・分析を進めているのかを本書はルポタージュ形式で綴っている。インドやスリランカなどに現場検証に出かけながら「赤い雨」の謎を解こうとする著者の調査は、さながら探偵物語を読んでいるかのようなスリル感があり、ぐいぐい引き込まれる。
この赤い雨の究明に、惑星科学者である著者が加わっているのには訳がある。2001年のインドでの赤い雨を研究したグループが、赤い雨粒子の正体を彗星爆発によって撒き散らかれた細胞と結論付けたからである。もしこれが本当だとすれば、赤い雨から採取された細胞は地球外生命にあたるかもしれず、世紀の大発見だ。また、これまで生物科学界で無視されてきた、地球上の原始生命は宇宙から隕石などに付着して到来したというパンスペルミア説を裏付ける重要な手がかりの一つになるかもしれない。パンスペルミア説は今までトンデモ論として軽視されてきたが、著者らの分析結果によっては、異端理論が日の目を見るかもしれないのである。
本書のページをめくっていると歴史が変わる一幕を追っているかのようなワクワクした気分を味わえる。地動説を唱えたガリレオやスノーボールアース説を主張するポール・ホフマンといった主流説に真っ向から刃向かう異端児を応援したくなるような人にはおススメの一冊だ。
本書を読んでもパンスペルミア論が正しいのか正しくないのかは正直よく分からないが、科学者が仮説をたて、証拠をもとに理論武装していく過程は読んでいて楽しい。さながら新手の経営者が自分の信じるビジネスモデルを実践していくかのようだ。常識にとらわれずに新たな視点で物事を捉えることの面白さを教えてくれる、そんな一冊である。
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異端が正論になる過程はほんとワクワクする。このワクワク感が一番楽しめるのが『スノーボール・アース』。書評はこちら。