冬。個人的にはとても好きな季節ですが、書店員の立場では皆さん大差ない思いを抱くでしょう。プレゼント包装に続き年末年始前の怒濤の荷物。本から飛び出るあれやこれやを手直ししてはまた手直し。終わらないことに焦りが募った先には、何だか楽しくなってきちゃうくらいにテンションが可笑しくなってしまう。現場では必ず猫の手も借りたい気持ちになります。
それでも、お客様の笑顔を見るたびに、この仕事が好きなんだと思うのです。少しでも多くの本を繋いでいきたいと思うのです。私のお店は大きくはないので、情報そのものが入ってこないことが数多くあります。そのため書店を巡っては良書を探し求めています。今回は「生きる」をテーマに選書してみました。
中央線沿線で見つけた素敵な一冊。つい、立ち止まって魅入ってしまった本です。小人の存在を信じている人にとっては魅力的な本です。食べ物から生活から事細かに分析され、絵本のような優しいタッチで小人の行動が描かれ、表情は豊かで愛嬌がある。
私たち人間が便利で豊かになればなるほど、大人の付き合いが出来ていくほど、小人たちは傍からいなくなるのかなと切なくなりました。心の純粋なまっすぐな人の目にこそ小人に出会えるのでしょう。純粋に生きることが出来る大人でありたいと思わせてくれる本です。
初めて教文館に行ったとき出会いました。あまりの感動に涙を流した藤城清治さんの影絵。美しくて、奥深くて、生きていることに喜びをくれました。それから藤城さんの作品を見ては心が揺さぶられるのです。人が経験することは人の数程存在しうるものだと思うので、藤城さんの作品を見て感じることも人の数あるということになります。
何故なら、藤城さんの影絵は、その人の思っていることに強く語りかけてくれるから。自身の存在を否定したいときには、肯定の感情を。幸せなときは眩い光のシャワーを感じさせてくれるのです。一人で辛いときも、誰かと幸せを分かち合いたいときも、藤城さんの作品は温かく包み込んでくれるのです。生きていることそれだけで幸せなことなんだと思わせてくれるのです。
同様に感じ入った本があります。今月発売予定の写真集です。ご案内をいただいたとき、真っ先に気になった一冊。谷川俊太郎さんが詩を書き、長倉洋海さんが世界各国をまわられて撮った子どもたちの写真が数多く掲載されています。子どもの目はなんて真っ直ぐで澄んでいるのでしょう。世界がどうあっても、子どもだけは変わらぬ淀みない目をしているのかもしれないと思った程です。生きているだけでたくさんの感情と向き合わなくてはいけません。目を背けたくなることもあります。しかし、明日は巡ってきます。日々を「生きる」ことに対しての喜びと、感謝が溢れているこの一冊は鬱々とした心に温かい光を注いでくれると思いました。
小さなかがやきとは、笑顔。一人一人の笑顔が大きな力になることで、作家市川拓司さんが願い続けているように、少しでも優しい世界になっていくのかなと思いました。いつか母親になったとき、新しい命に強かに生きて行ってもらいたい。そのために今出来る精一杯のことをしていたいと思いました。
誰にでも思い出の味があると思います。思い出は、前へ進むための大切な活力源となります。京都本を数多く書かれている柏井壽さんの初小説。思い出の味を語るだけで、再現してくれる。「味を探してくれる探偵所」という設定です。描写に風情を感じますし、一つ一つ丁寧に語られます。出汁の香りも、揚げ物の香りも自身の思い出さえ浮かんでくるようです。
人には乗り越えなくてはならない壁が存在します。背中を押してくれる何かが欲しい。そんなとき、「鴨川食堂」へと足を運ぶと、生を尊べ、前に進む力が湧いてくるように思うのです。私は、笑顔がなくなったら危険信号だと人に対して思っています。誰かの笑顔を見ていること、それが私の生きがいなのだと改めて感じる一か月となりそうです。十二月には後一回寄稿致しますのでご挨拶はその時に。楽しんで本を届けていきたいと思います!
髙橋佐和子
1982年、AB型。埼玉県にて育つ。大手書店、街の書店を経て、現書店で働く。地図ガイド・児童書・文庫のお手伝いをしているが、文芸をこよなく愛するアルバイト。最終目標は全ジャンルに対応できるようになること。本と同じくらい愛しているのは吐息が出るほどの美味しい日本酒。
【山下書店南行徳店】
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