「こんど6次元で(イベントを)やるんで、来てくださいよ。」というような感じで、ここ最近、なんだかやたらと6次元という言葉を耳にしている気がする。「6次元でやる」っていったいなんだ?と頭のなかは???でいっぱい。2次元は平面で、3次元は立体。4次元は時空を超えて、ドラえもん的なことだよね。5次元ってのはスピリチュアルの関係でよくみかけるけど、じゃあ6次元っていったいなんなの?そう思っていたら、6次元に関する本が出ていた。科学のことでもスピリチュアルのことでもなかった。なんてことはない「6次元」というのは荻窪にあるブックカフェの名前だったのだ。
“古いもの、新しいもの、2次元も3次元も、すべて受け入れてくれる異次元空間、それが6次元です。”
この本の著者はブックカフェ6次元の店主である。6次元とはなんですか?そう聞かれたときに「異次元空間みたいにいろいろな人やものが集まるカフェを目指している」と著者は答えているそうだ。カフェと古本屋とギャラリーという、死ぬまでにしたい3つのことを同時にはじめてできた6次元。このお店がなんだかとても魅力的なのだ。
“茶碗やお皿にもこだわりました。江戸時代の骨董や、作家のものなど、貴重な器をさりげなく使っているのがいいかなと思っています。クッキーは弥生式土器に盛り付けて出します。”
弥生式土器って!この一文をみた瞬間、土器にそこまで興味があるわけでもないけど、すぐにでも6次元に行ってみたいと思った。弥生式土器で食べるクッキー。なんて魅力的な響きなんだろう。家が「。」だとしたら、カフェは「、」だと著者はいう。日常の中で1回立ち止まって、句読点を打つ。そうして仕切り直し、自分を見つめ直す。そんな空間が6次元だという。スタバなどが提唱しているサードプレイスという考え方をこんな詩的で素敵な表現で言い表す店主。これは只者ではない。
カフェを始め、人が集まる場をつくるということが、いまとても重要な意味を持つようになってきたと、私は最近切に感じている。6次元でも3月11日に起きた東日本大震災以降、不安で一人になりたくないという、独身の男女がたくさん店に来るようになったそうだ。人は誰でも、「1人は好き。だけど独りは嫌い」なものなのだ。
また災害のあとには新しいコミュニティが生まれるそうだ。日本でも明治から大正の初期には50件しかなかった喫茶店が、関東大震災のあと、昭和初期には2500件まで増えたという。そこから話はたまり場の歴史や、日本の喫茶文化史、さらにはカフェ飯の変遷へと移り変わっていく。カフェ発祥の地はイスタンブールらしい。この辺りの脱線具合もこの本の魅力である。
HONZもそうだが、世代や職種関係なく、利害関係抜きで、共通の趣味や話題で集まれる場があるというのは、とても楽しく幸せなことだと思う。最近では読書会や、ビブリオバトルといった、本という共通の話題で人が集まることも増えているようだ。6次元でもそういったイベントを定期的に開催している。中でも村上春樹の読書会は有名で、ノーベル賞の発表時期が近づくと、毎年、ハルキストが集まるカフェということで、世界中から取材が来るという。
そういった人が集まる場(たまり場)での出会いが、新しいことのはじまるきっかけになることも多い。いまみんながシェアしたいのは、お金やモノではなく「言葉」と「場」であると著者はいう。そういった縁をとりもつような場を作ろうと思ったら、この本はとても参考になるはずだ。また、いつかはカフェを開きたいと思っている人には必読だろう。私もいつかはブックカフェのようなものをやりたいと思っている。ゆえにこの本に書かれていることは大いに参考になったし、場を作るというのは店がなくとも積極的に実践していきたいと思う。そしてもし自分の店を持ったときは、本書に出てきた以下の言葉を掲げたい。
“珈琲は、飲み薬。本は、読み薬。”
読み薬の宝庫HONZ。薬の読み過ぎに注意(笑)
場をつくるという意味では、この本もとても参考になる。恵文社一乗寺店と6次元ってなんだか似た匂いがする。