『あまちゃんメモリーズ 文藝春秋×PLANETS』-編集者の自腹ワンコイン広告

2013年11月9日 印刷向け表示
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あまちゃんメモリーズ    文藝春秋×PLANETS

作者:みなさんのあまロスをなんとかすっぺ会
出版社:文藝春秋
発売日:2013-10-31
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まさに、『あまちゃん』の神に導かれてできた本。

制作過程を振り返ると、そんな感慨がよぎります。

 

本書は批評家の宇野常寛が2005年から不定期に刊行し続けてきている批評誌「PLANETS」のスピンアウト増刊として、文藝春秋社とのコラボ出版というかたちで発行するに至った“究極の『あまちゃん』本”です。

 

制作のきっかけ自体は、僕たち的にはごくごく自然なものでした。

というのは、『木更津キャッツアイ』『タイガー&ドラゴン』をはじめとする宮藤官九郎脚本のドラマ作品や、『ちりとてちん』『カーネーション』等の「朝の連続テレビ小説」シリーズ、あるいはチーフ演出の井上剛監督作品『その街のこども』などについては、宇野のデビュー著作『ゼロ年代の想像力』での論及をはじめ、過去の「PLANETS」でも同時代のコンテンツの中でも特に注目すべき動きとして、たびたび特集してきた流れがあるからです。

(むしろ、クドカンや木皿泉、いくつかの朝ドラの名作など、従来の文化批評ではほとんど取り上げられることのなかった2000年代ドラマ作品への評価こそが一つの結集軸になって、宇野や筆者、ドラマ評論家の成馬零一氏など、現在の「PLANETS」のカルチャー批評の陣容が固まったと言っても過言ではありません。)

 

ですから「クドカン脚本・井上チーフ演出の震災直前の東北を舞台にした、しかもアイドルを題材にした朝ドラ」という時点で、「文化史的に何かしら注目に値すべき作品になるだろう」ことは、放送前からわかっていました。

 

なので僕自身は、4月1日の第1回放送で「じぇじぇじぇ(‘jjj’) !」なんていう地域性とネット時代の感性がハイブリッドした顔文字方言のインパクトで、『あまちゃん』が期待以上の作品になっているのに興奮して以降、Twitter上で毎朝140字ギリギリいっぱい×平均6~8本程度のリアルタイムレビューを夢中になって書きとめ続けていました。

 

本作の人気が従来のクドカンファン以外にも大きく話題になった5月以降は、「メルマガPLANETS」でもその1週間ぶんの『あまちゃん』評をまとめて加筆する連載にもしたりして、長年のクドカンファン/朝ドラファンであったことの幸福を、はてしなく貪欲に噛みしめる半年間を過ごしていたわけです。

 

この筆者のしつこい全エピソード評や、やはりTwitter上で『ゲゲゲの女房』あたりから朝ドラの楽しみ方の定番になっていたプロアマの漫画家・イラストレーター陣によるキャラクター二次創作イラスト(「あま絵」)などを骨格に、濃いファンブックとしてのニーズを満たしつつ、内容的にも周辺現象的にもソーシャルメディア時代のドラマの変革を現在進行形で完遂している『あまちゃん』の画期性を、批評の側が最大限に打ち返せる「PLANETS」らしい特集本ができるのではないか。

 

全156エピソード完全レビュー

そんな意図で、たしかキョンキョン演ずる春子が「スナック梨明日」で初めて「潮騒のメモリー」を歌ったあたりの頃、宇野と二人で熱に浮かされたように最初の目次案を作ったのでした。

 

かくして北三陸編の後半には手を挙げてくれた文春さんでも企画が通って制作のゴーサインが出たわけですが、ここまではあくまでこちとらの人為の話で、「に、にわかの便乗本なんかじゃないんだからねッ!」というだけのこと。

 

本当に神が降りてきたのは、東京編が佳境に入ってきた夏の終わり。

毎朝ミズタクに悶えつつキャラクターレビュー企画「『あまちゃん』人物陳列室」で誰にどの人物の「あま絵」を描いてもらうかの検討と打診をドキドキしながら進めていた際、僕のTwitterレビューをご覧になっていたという某氏より、能年玲奈の演技指導者である“生ゴミ先生”滝沢充子さんをご紹介いただいたあたりからでしょうか。

『あまちゃん』人物陳列室

滝沢さんとの最初のお引き合わせの機会は、忘れもしない9月頭、震災編の衝撃が列島を駆け巡っていた火曜日。そこで画面の向こう側にあったアキちゃんの存在が、どのような現実的背景から生まれてきたかのビックリするような(誌面に書けない諸々も含め)お話しを沢山うかがいます。

 

そして、それが単なる裏話ではなく、1980年代の演劇ブーム以来、日の当たらなかった演劇人たちや彼らが磨き上げてきた手法の再生でもあったということに慄然。これはちょうど、震災編直前の『あまちゃん』劇中で描かれていた、鈴鹿ひろ美からアキへの女優魂の継承ともシンクロする話題でした。

 

まさに虚構と現実が交錯する『あまちゃん』の作品性への理解を深める上でも、とても重要な話題だったので、急遽台割を変更してドラマ・演劇方面では最も信頼するライターである木俣冬さんに聞き手をお願いし、正式なインタビューを収録するに至ったわけです。

 

その間に、大友良英さんへの、なんとロンドン公演へ出発するためにご自宅から成田空港に向かう早朝の長距離タクシー内(!)という、奇跡的なタイミングでお時間をいただいてのインタビューも実現。こちらは音楽ライターの柴那典さんが、過去の大友さんの著作や『その街のこども』での渡辺あや・井上剛両氏とのコンビネーションに遡る入念な準備のもとに、(誌面に書けない諸々も含め)震災展開を踏まえたスケールの大きい作品総括的な話題を引きだしてくれました。

 

このあたり、「♪来てよタクシーつかまえて」とばかりに、まさに過去編で正宗が運転手をつとめる中、太巻がヤング春子に国民的アイドル女優の真相を語ってみせたのに近いシチュエーション。こちらは決して「あほんだら(×5)」などと凄んだりはしませんでしたが、劇中で太巻が出したのに近い額面のお札を渡された(※単にそれだけの走行距離だったからです)あの運転手さんは、国民的作品の真相を何を思って聞いていたのでしょう。

 

そして後日、改めての滝沢充子さんインタビューを収録したその足で、久慈市のロケ地探訪企画「北三陸ストレンジウォーク」のため、僕はさよならも言わずに北へ向かいました。正式な取材日程はその2日後でしたが、辛抱たまらず自腹での前乗りです。“前乗りクネ男”と呼んでください。

 

 

北三陸ストレンジウォーク

本当はこの取材、8月中に終えたかったのですが、台風などの影響でグラビアの撮れる天候に恵まれず順延に次ぐ順延で9月下旬にズレ込むことに。その結果、『あまちゃん』序盤でも描かれた巨大な山車が街をお通りする「秋祭り」の期間に重なることになったわけです。1年で最も久慈に観光客が殺到するこの期間は、宿の手配や絵面の確保上、リスキーな日程でもありました。

 

しかし、前号『PLANETS vol.8』でも東京論記事「東京ストレンジウォーク」を担当したライターの橋本倫史さんが見事な旅手配師ぶりを発揮し、「楽天トラベル」や「じゃらん」では取れなかった駅前のホテルを直接アプローチで確保。加えて祭のゲストとして能年ちゃんと宮本信子さんが現地を訪れるとの情報をキャッチし、なんと市が用意した有料観覧席の最後の3席をゲット!

 

文字通りの特等席から、かつてアキが憧れの目で夜の闇に月のごとく輝くミス北鉄のユイちゃんを仰ぎ見た体験をリフレインするように、写真家の小野啓さん(10数年間全国の高校生たちを撮り続けてきたポートレート写真集『NEW TEXT』を刊行準備中です)の最大望遠のカメラが、まだ明るい夕方の光の中で民衆の中心で輝く太陽のような存在を、バッチリと写しとったのでした。

 

 

撮影:中川大地

なお、この取材の様子をTwitterでつぶやいていたところ、関西から聖地巡礼に来ていた『あまちゃん』ファンのホリーニョさんからリプライをもらい、一緒に取材を手伝ってもらったりも。これが縁で、11月16日(土)には中森明夫さんと僕がゲストトークする「関西あまちゃんオフ会」が開催されることになりました。(当日は、ここに書ききれなかったようなさらなる制作秘話も、いろいろできるかも…)

 

以上のように、あれこれ語るに尽くせぬ神がかった偶発的な出会いや巡り合わせの数々によって、まるで『あまちゃん』のドラマを現実の時空に置き換えて逆回転するかのような展開に恵まれながら、この本は作られました。

 

要するには、完結した虚構としての『あまちゃん』自体を振り返るだけでなく、それが生み出された現象との橋渡しを図り、いわば『あまちゃん』の続編としてみなさんの現実経験を捉え直すことによって、あまロスをなんとかすっぺ!てな本です。

 

春子流に言えば、「なにこの空気、最終回? 人生は続くのよ」ってやつですね。

 

ぜひお手に取ってみてください!

『あまちゃんメモリーズ』副編集長 中川大地(文筆家/編集者)

*「編集者の自腹ワンコイン広告」は各版元の編集者が自腹で500円を払って、自分が担当した本を紹介する「広告」コーナーです。HONZメールマガジンにて先行配信しています。

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