どんな逆境でも、しなやかにしたたかに、私は私の花を咲かせてみせる―それが雑草魂。
耳タコの常套句「逆境の時代、だからこそ雑草魂で乗り切っていきます!」とは言うものの、雑草の生態を改めて顧みることなど、日常ではめったにない。しかし、ひとたび「名もなき草」の暮らしぶりを覗いてみると、そこではエゲツナイまでの適者生存競争が繰り広げられている。
例えば春の風物詩でもあるツクシ。これはシダ科の植物でもあるスギナの胞子茎にあたる。スギナの仲間は3億年前の石炭紀に大繁栄し、当時は高さ数十メートルにもなる巨大スギナが地上に密生していた。実はこのときのスギナが長い年月をかけて石炭となり、人間社会にエネルギー革命をもたらしたという。
その後、幾度となく絶滅の危機を乗り越えたスギナは、地下に根茎を縦横無尽に張り巡らすようになった。かつて原子爆弾を落とされた広島でも、この「地下シェルター」のおかげで真っ先に緑を取り戻したのがスギナだった。幾度となく地獄を見た者の危機管理能力は、やはり侮りがたい。
攻撃は最大の防御、生存のために攻める手を決して休めないのがナズナである。ペンペン草の名で知られる畑の雑草は「だらだら発芽」戦法を得意としており、どんなに今日順調に生育していても明日の命の保証はないとばかりに、春ばかりでなく、夏でも秋でも切れ目なく芽を出し続ける。
その秘密はやはり地下にある。地面の下では「シードバンク」(=種子の銀行)とも呼ばれる膨大な量の種子が眠りながら自分の出番を待っている。また、冬は種子こそ出さないものの、「ロゼット」と呼ばれるスタイルで地上に葉を広げ、寒空の下、春に備えて光合成でしっかり栄養分を蓄え続ける。他者に先んじ、苦境に力を溜め、攻めの手を休めない―勝つべくして勝つ、実に堂々とした戦いぶりではないか。
この他、遺伝子レベルで在来種を侵食し続ける「外来タンポポ」のクローン戦略、トラクターでズタズタにされようとも切断された根茎の全てから再生を果たすという「ヒルガオ」の仰天ゾンビ戦法、通常植物の「C3」回路とは別に、独自の「C4」回路を駆使して光合成効率を2倍に飛躍させている「エノコログサ」のハイテク・ターボエンジン・メカニズムなど、計50種の雑草の知られざる生態・とっておきの逸話がこの一冊にギュッと集約されている。
著者の稲垣栄洋氏は農学博士。農林水産省を経て、現在は静岡県農林技術研究所にて主任研究員を務められている。他方、本書のイラストを担当しているのは三上修氏。読み切りにちょうど良い長さのエピソードに、繊細なペン画の合いの手が入るという演出・テンポの良さも、特筆すべき本書の魅力である。
下にご紹介させていただくが、本書の他にも稲垣・三上コンビの手による本が草思社から刊行されている。人呼んで「身近な」植物3部作、ぜひ多くの方に稲垣・三上ワールドにどっぷりハマっていただきたい。