ソーシャル時代の新しい選書レーベル角川EpuB選書が本日創刊した。創刊のラインナップは角川歴彦(KADOKAWA社長)の『グーグル、アップルに負けない著作権法』、西村卓也(角川アスキー総合研究所客室研究員)の『HTML5で描く未来 クラウド2.0が社会を変える』、クリストファー・スタイナー(起業家・ジャーナリスト)の『アルゴリズムが世界を支配する』。そして今日、紹介する川上量生(ドワンゴ会長)の『ルールを変える思考法』だ。
選書というと大学教授などが書いたちょっと小難しいものというような印象があるかもしれない。しかしこの角川EPubB選書は新書と選書の中間あたりを狙ったものということなので、選書よりはだいぶ読みやすそうだ。装丁も帯がついた状態だとビジネス書のようにみえる。帯がなければ共通のデザインなので、シリーズだということがわかる作りになっている。
今後のラインナップもなかなかすごい。中村伊知哉(慶応義塾大学教授)、喜連川優(東京大学生産技術研究所教授)、伊藤穰一(マサチューセッツ工科大学メディアラボ所長)、村上裕一(批評家)、津田大介(ジャーナリスト、メディア・アクティビスト)とそうそうたる顔ぶれが後ろに控えているので期待したい。
と、前置きが長くなった。『ルールを変える思考法』はドワンゴの会長である川上量生が4Gamer.netというインターネットのゲーム専用のニュースサイトに連載していたものを書籍化したものだ。ゲームに関することとドワンゴの経営に関することがごちゃまぜになった感じで、これがゲーム専用のニュースサイトで連載されていたというのは少し異様な感じがする。でもこの連載はとても人気があったらしい。確かに読んでみたらこれがめちゃくちゃおもしろいのだ。
著者は根っからのゲーマーだそうだ。そしてゲーマーには優秀な人材が多いということをこの本では声高に主張している。確かHONZの代表も相当なゲーマーだったと聞いたことがあるから、さもありなん。実際ドワンゴでは廃ゲーマー(ゲームにのめり込みすぎて、普通の社会生活を送れなくなってしまった人のこと)を社員として雇っていたこともあるそうだ。優秀なゲーマーは、プログラミングだけではなく、マネジメントに向いているらしい。ってそれほんと?
確かにオンラインゲームでギルドや同盟を率いる能力というのは、現実で組織を動かす能力とあまりかわらない。だからゲーム内で優秀な働きができる人は、現実社会においても役に立つということはあるのかもしれない。ただゲーマーの欠点は、労力や時間のほとんどをゲームに注ぎ込みがちになることだ。これを「人生というゲーム」のほうにいかにして引っ張ってこれるか?ということが重要である。ドワンゴでも雇っていた廃ゲーマーの一部はゲームばかりやっていて、仕事をしないので解雇せざるをえなかったという。しかし彼らが人生というゲームにのめり込んだら、相当高いポテンシャルを発揮するはずだ。実際にドワンゴで活躍している元廃ゲーマーも存在するそうだ。人と物は使いようなのかもしれない。
ゲームとビジネスには共通点が多い。ゲームでは思考のフレームワークが鍛えられるそうだ。(ちなみにここでいうゲームというのはテレビゲームではなく、ボードゲームなどのアナログゲーム、また戦略シュミレーションのゲームのことを言っている。)著者はウォーゲームをやっていく上で、ルールを変えることの重要性に気がついたという。ビジネスをするときもルールの検証からはじめるそうだ。世の中には変えたほうがいいルールというものが多く存在する。そこを検証して変えられるものはどんどん変えていく。そうすることで無用な戦いを避けることができるのだ。この考え方はとても合理的だ。
ドワンゴの成り立ちや経営に関する話もとてもおもしろい。ニコニコ動画が動画サイトの巨人YouTubeとどう戦ってきたのか?またニコニコ超会議といったリアルイベントのこと。違法動画を排除したら、ニコ生から独自のコンテンツが生まれてきたことなど。興味深い内容が盛りだくさんである。
「みんなで考える」という発想を持っていながらも、舵取り役は少数でいいだとか、ヒットするものは説明できないものから生まれる。きちんと説明できないんだけど、正しいと自分が思うことの上に答えがある。などなるほどと思うようなこともたくさん書かれていて、私自身もたいへん勉強になった。人の上に立つ立場の人や、起業を考えている人には多くの気づきを得られる1冊になるだろう。