HONZをご覧の皆様、こんにちは。すっかり秋めいてまいりましたね。いかがお過ごしでしょうか。富山では夜は長袖でないと寒く感じられるほどです。こちらには梨の産地がございまして、おいしいシーズンでございます。
さて今月は、ちょっと生物の棚へ戻って、進化に関連した書籍をご紹介いたします。
まずは『進化する魚型ロボットが僕らに教えてくれること』。最初に申し上げたいのですが、とにかく著者、魚愛に溢れております。大学教授でロボット工学研究所所長という肩書の真面目な研究者でいらっしゃるのですけど、その旨文中で宣言なさっています。それだけでも面白く感じられます。そして愛が高じて、魚型ロボットを作り、研究の題材にしていくのです。進化に関する本を読んでいると、その変化の様を現実にこの目で見ることができたなら、またこの仮説を検証してみたい、と思うことはありませんか。脊椎動物の初期の進化の過程について、コンピュータープログラムを使ったシミュレーションではなく、実際に機械工学の力を借りて検証していく。その過程を追うのが本書です。最新のロボット研究ながら、非常に地味(失礼!)な作業の繰り返しであることがどことなく身近に感じられる一冊です。実験を通して語られる脳や知能についての考え方も興味深いので、ぜひご一読を。
次にご紹介するのは、『生命はどこから来たのか?アストロバイオロジー入門』。アストロバイオロジーをそのまま訳すと宇宙生物学。とすればこれは地球外生命体を研究する分野なのかと思われるかもしれません。しかしそれでは限定的に過ぎます。アストロバイオロジーの成立に関わる関連分野は、目次から見て取るだけでも、惑星科学、物理学、生物学、化学、地学と非常に多岐で、宇宙スケールで生命について考える学問分野だと言う方がより正確です。生命はどこから来たのか。その問いの答えは宇宙に求めることができるのかもしれませんし、そうでないかもしれません。急激に研究の進む発展途上の学問分野を、元NASA客員研究員で東京大学名誉教授、日本における第一人者が、その意義や成立過程、またこれからどのように宇宙での生命探査が進められていくのか、非常にわかりやすく、包括的に解説しています。進化学に興味のある方だけでなく、宇宙に興味のある方にも喜んでいただける入門書です。この本を入り口にして、様々な分野に興味を持ってしまうこと間違いなし。こんなに平易な文章で端的に、しかし読者の興味を引き付けつつ書くのは、非常に難しいことだっただろうと推察いたします。入門書の書き方という面でも、ぜひご注目いただきたいと思います。しかし、序章とあとがきにある「インドの赤い雨」、研究結果が気になってしまうのですが・・・。
さて、目線を宇宙に広げた後は、どうぞ私たちの中に潜り込んでまいりましょう。『ヒトの心はどう進化したのか―狩猟採集生活が生んだもの』。私どうやらコラムの面白い本をご紹介するのが好きなようでして、今月の面白コラム本はこちらです。私たちヒトは他の動物とどこが異なるのか。ヒトの心はどのように特殊なのか。このテーマで書かれた本は数あります。著者はまさにそのようなテーマで書かれた本、またそれを含む本の翻訳を多く手がけた心理学者。本文はその翻訳の過程で着想を得た切り口を集めて書かれています。まさに最新研究の要素が詰め込まれたいいとこどり。ヒトの心の研究について概要を把握したい方には適した一冊です。しかし、特筆すべきはコラムです。腰痛、ソフトボールにおける性差、個人の識別など、そこに書かれていることが科学的に立証されていることなのか、調べてみたくなります。先生、本当ですか!?と思わず声に出してしまいます。私、個人的にこのような知的好奇心を喚起する内容の本が好きです。また、巻末の文献案内はポピュラーサイエンスの案内役として充実した内容なので、ぜひご参考ください。
最後に革命をご紹介して終わります。自社刊行物で失礼いたします。紀伊國屋書店出版部より8月に出版された『流れとかたち』。HONZでは内藤順がいち早くレビューいたしました。その内容がどう受け止められるのか心配だったのでしょうか。発売前、出版部編集担当どのより、ちょっと野坂読んで感想をくれないか、と言われ、えー熱力学とか全然わかんないですし私、と思いながらも読み始めたところあまりにも面白く、一人興奮しまくっておりました。既存のパラダイムを否定する、非常に画期的な論です。生物・無生物を問わない進化の新理論。ダーウィン、ドーキンス、プリゴジンに異を唱えた本書はまさしく革命。熱の込められた一冊です。ぜひ「目撃」を!
それではまた。今月も素敵な読書をお楽しみくださいませ。
紀伊國屋書店理工書担当としては、進化といえばこれを出さずにはいられませんのです。ドーキンス、ベストセラー!